【マンガ】考えなければ勝てない。サッカー漫画の革命『アオアシ』

2021年4月24日

 

【書評】だから、君はどうする? 『アオアシ』から学ぶべき思考。


©小林有吾/小学館

 

今回は、私が今最もハマっている漫画、『アオアシ』を紹介する記事になります。

これは本当に面白い漫画なので、是非多くの方に知ってもらいたいです。

 

ジャンルとしては「サッカー漫画」になるのですが、皆さんが想像しているサッカー漫画とは一線を画します。

私は『アオアシ』を読んでから、「サッカー」というスポーツに抱いていた価値観が大きく変わりました

読んだ方の多くが、「サッカー」を見る目が変わるようになる漫画です。

 

特に、こういう風に思っている人にこそ読んでもらいたいです。

 

こういう人に読んでもらいたい!
  • サッカーの試合をテレビできちんと見たことがない。
  • 小学生・中学生の頃に体育でやっていたけど、サッカーの楽しさが分からなかった。
  • 観戦していても、中々点が入らないし、途中で飽きてしまう。
  • ポジションだったり、ルールが複雑だったりで、理解することが面倒臭い。

 

皆さんはいくつ当て嵌まりましたか?

ちなみに、これらの質問は、私がサッカーに関して抱いていた感想そのままです。

やってても見ていても、イマイチ面白さが分からないなあ、と思うスポーツでした。

 

そんな私が25歳にして初めて、サッカーというものの本質に気付かされたのが、

この『アオアシ』という漫画でした。

 

具体的な紹介の前に、どんな漫画なのかを『ワンピース』で例えると、

“結果を出さないと殺されてしまうロジャー海賊団で、見習いとなったバギーが主役の漫画”です。

はい、何言っているのかさっぱり分からないと思うので、あらすじから入っていきます。

 

作品を紹介する都合上、多少のネタバレは含みますので、あらかじめご注意下さい。

 

 

あらすじ

物語の主人公:青井葦人(アオイ・アシト)は愛媛で暮らすサッカー少年。

地元では敵無しの、めちゃくちゃサッカーが上手い奴です。あと髪の毛の癖がすごい。

©小林有吾/小学館

中学最後の試合は、自身の退場により敗北を喫してしまいますが、

その試合を見ていた「東京シティ・エスペリオン(C.E.)」というJユースチームの監督である、

福田達也から入団セレクションの挑戦権を与えられます。

 

そこから、Jユースを舞台とした彼のサッカー人生が始まっていく・・・という物語です。

©小林有吾/小学館

 

Jユースとは?

Jユースといってもピンとこない方も多いと思うのですが、要するにサッカークラブのことです。

部活動との違いをざっくりいうと、「小学生から一貫した指導体制で育成する組織」といったところでしょうか。

 

トップチームへ入団するには、クラブから昇格を認められる必要があります。

昇格すれば、トップチームと同じ練習をすることが出来るので、

世間的には「プロサッカー選手への近道」という印象があると思います。

 

概ね、そういったイメージで間違いありません。

サッカーのプロを目指す、優等生が集まる場所です。

 

『アオアシ』の主人公、青井葦人は入団試験を受けて東京C.E.に入りますが、

他には外部からのスカウト、昇格生等もおり、様々な境遇のメンバーでチームを組むことになります。

 

 

『アオアシ』の魅力

『アオアシ』の名シーンを細かく挙げていくとキリがないので、大分端折りながら進めていきます。

この記事を読んで興味を持った方は、是非、漫画喫茶などで試し読みすることをオススメします。

読んでみたら、最新刊まで読み進めてしまうことを保証します。

 

私が『アオアシ』を初めて読んだのが、「ウェルビー栄」という名古屋のサウナ施設に宿泊したときだったのですが、

本当に徹夜する勢いで読み進めてしまいました。

 

まずは、『アオアシ』が如何に革新的なサッカー漫画なのかというところを、紹介します

  • 主人公のチームが「最強」であること。
  • 得点シーン以外の部分が面白いこと。
  • スキルではなく、ロジックで戦うこと。
  • 主人公のポジションがDF(ディフェンダー)であること。
  • 「最強」であるが故に追い詰められること。

 

主人公のチームが最強

主人公が所属することになる東京C.E.というJユースは、小学生の頃からプロを目指してサッカーをやってきた、エリート中のエリートです。

そういった人達が集まった集団なので、個々人のスキル、サッカーの戦術は圧倒的。

 

一般的な高校相手なら、戦う前に勝負を諦められてしまうような存在です。

実際に、チームのトップ数人は日本のU-18代表選手に選ばれている程です。

 

対して、主人公のアシトは地元では敵なしだったとはいえ、あくまで田舎レベルの話。

東京C.E.に入団してからは、周りの同期と比べて、自分の実力が遥かに劣っていることを思い知らされます。

 

©小林有吾/小学館

 

こんな風に、主人公が一対一の状況に持ち込まれたら、基本的に負けます

物語における戦闘能力のバランス感覚は、アニメ『コードギアス』のルルーシュに似ているかもしれません。

『コードギアス』知らない人はすみません。

 

 

得点シーン以外の部分が面白い

アシトは周囲より能力で劣っている為、1人で突き進んで、状況を打破するという場面はほとんどありません。

・・・では、どうやって活躍するのかというと、「指示(コーチング)」で周囲を動かし、ゲームを動かしていきます

 

何故そんなことが出来るのかというと、アシトは「俯瞰」という力を持っています。

簡単に言うと、「視野」が異常に広く、コートを上空から見下ろしているかのように動くことができます。

その力は、コート全体の味方・相手全員の位置を記憶し、試合の流れを予測できる程です。

 

要は、プレイヤーではなく“司令塔”という能力を伸ばしていくことで、アシトの才能は真価を発揮していくことになるんですね。

©小林有吾/小学館

 

得点シーンもめちゃくちゃ盛り上がるのですが、そこに至る過程。

こういった“コーチング”の場面が本当にカッコ良く、印象深く描かれます。

 

 

スキルではなく、ロジックで戦う

サッカーというスポーツで勝つ為には、もちろん個人のスキルも大事です。

ーが、それ以上に大事なのは組織的に動き、ロジックで勝つこと。ここは後で掘り下げます。

©小林有吾/小学館

 

例えば、6巻のこの場面。

チームメンバーとの連携すら上手くいっていなかったアシトが、客観的に自分のプレーを振り返ることで、

自軍の攻撃時にメンバー2人が一定の距離を保っていることに気づきます。

 

そして、「サッカーの基本はトライアングル」という戦術を身につけて、試合を有利に運んでいきます。

 

勘や勢いではなく、

  • 相手ならどう動くか?
  • 自分が味方のポジションにいるときに、どこに居て欲しいか?

周囲の戦況から自分のやるべきこと、その瞬間における最適解を考えて、状況を打破していきます。

 

 

主人公のポジションがDF(ディフェンダー)

これは本当に、サッカー漫画における革命だと言われています。

©小林有吾/小学館

 

アシトは物語の冒頭ではFW(フォワード)というポジションに着いています。要は攻撃役ですね。

『アオアシ』に限らず、世の中のほとんどのサッカー漫画はそうだと思います。

 

スポーツ漫画なので、「主人公が得点を決めて勝利する」という場面はお約束事ですし、

読者もそういう展開が見たいですよね。

 

そして、それは主人公であるアシトも同様。むしろ、皆さんが思っている以上に熱いFWで、

「俺が点を決めて勝つ!」
「世界一のFWになる!」

そういった目標を持ってサッカーに向き合っている主人公です。

 

実際に、試合でもここぞという場面でしっかりと点を決めてくれるので、

徐々にチームメンバーから認められるようになっていきます。

 

しかし、東京C.E.の監督である福田達也からは「FWでは通用しない」と断言されてしまいます。

最初はFWとして起用しているのに、途中でDFにポジション変更しろと言われるんです。

驚愕の展開ですよね。

 

アシトがDFに転向するのは7巻からになります。

主人公が守備役になることで、面白くなくなるのでは・・・?と、普通なら思いますよね。

ご安心ください。

そこから、更に『アオアシ』は加速度的に面白くなっていきます。

 

 

チームが最強であるが故に・・・

スポーツ漫画といえば、追い詰められてからの逆転勝利!というのが見どころですよね。

『アオアシ』ももちろん、そういった王道の展開をしっかり抑えています。

 

別の作品になりますが、『カイジ』が何であんなに面白いのかというと、

“主人公がメチャクチャ追い詰められるから”だと思っています。

1巻から大ピンチの状況になり、首の皮一枚でなんとか生き延びる。

そういった命と命のギリギリのやり取り、真剣な攻防の連続が、最後にカタルシスを生むわけです。

 

『アオアシ』でも、アシトはかなり追い詰められます。

「俺は絶対にプロになる!」という目標を掲げて、東京C.E.に入団する訳なので、

(本人的には)背水の陣という状態なんです。

 

ただ、先述した様に主人公のチームは最強です。

基本的に相手が強すぎて敵わないという展開はありません。

 

ーじゃあ、誰に追い詰められるのかというと、味方から追い詰められます

©小林有吾/小学館

 

上の画像の時点では、アシトが未だ入団する前の試験段階ですが、1つ上に阿久津という超強い先輩がいます。

この阿久津が曲者でして、アシトと顔を合わす度に「才能がないから辞めろ」、「鬱陶しい」といった侮蔑の言葉をぶつけてきます。

 

阿久津ほどではありませんが、他のメンバーもプライドが高く、

実力が追いついていない者に対しては「お前がいると練習にならない」ということを平気で言ってきます。

 

そして、東京C.E.では見込みのないと判断された選手は、

「ウチでは通用しない」と切り捨てられることもあります。恐ろしい世界です。

 

そこからアシトがどうやって食らいついていくのか、どうやって追いすがっていくのか

これも作品の大きなポイントですね。

真剣にサッカーを学び、吸収していく主人公の姿は、見ていて気持ちが良いです。

 

余談になりますが、先ほど紹介した阿久津。

まあ嫌な奴ではあるんですが、私が『アオアシ』でトップクラスに好きなキャラクターです。

元々、主人公よりヒール役や悪役の方が好きというのも、理由としてあります。

ですが、それ以上にとても人間臭さが感じられるキャラクターなので、気に入っています。

 

阿久津やアシトに限った話ではなく、『アオアシ』の世界では選手全員、葛藤します。

敵にも味方にも感情移入できて、不快なだけのキャラクターは殆どおりません。そういったところも魅力の一つですね。

 

 

思考力:インテリジェンス

『アオアシ』の作品のテーマは、“考える”ことです。

©小林有吾/小学館

 

サッカーは、11vs11でボールを運ぶスポーツです。

そう書くと単純ですが、実際には戦況が目紛しく変化し、攻撃/守備も著しく切り替わります。

圧倒的スキルを持っていたとしても、1人では何も出来ません。

 

だからこそ、選手に問われるのは「個人戦術」になります。何だか難しい言葉ですが、作中ではこのように表現されています。

選手達がフィールド上で自ら思考して最良手を探り、試合状況に合わせて自分のプレーを変えていくこと。

 

自発的に考えることができない選手は、臨機応変に戦局が変わるサッカーについて行くことは出来ません。

周囲より劣っている事を自覚した上で、

「だから、どうするか」を考える主人公達の姿は、日常をつい思考停止で生きてしまう私たちにとって、大きな刺激になります。

 

サッカーに限った話ではなく、世の中を生きて行く上で、参考にすべき姿勢だと私は考えます。

 

 

サッカーの見方が変わる名シーン

最後に、めちゃくちゃ名場面ではないかも知れませんが、個人的に感銘を受けたセリフを紹介します。

11巻での「武蔵野高校」との戦いで、1点ビハインドで前半終了した、ハーフタイムの場面です。

 

対策を議論する訳ですが、チームには重い雰囲気が流れます。

「DFが突破されるから攻めることも出来ない」と、感情的に味方を責める選手も表れます。

その意見に対し、東京C.E.のヘッドコーチは冷静に「それは違う」と言います。

©小林有吾/小学館

DFはベストメンバーであり、このメンバーでなければもっと点を取られている。

チームを支えてくれるDFをフォローする、とても良い場面ですね。

 

この「DFはどうしても失点シーンだけを切り取られてしまう。」というのが、深いセリフだと思います。

普段私たちがTVでスポーツを観ていると、つい熱くなってしまって、

「お前何やってんだよ!」
「ミスするんじゃねーよ!」

と言ってしまいがちです。

言葉にはしなくとも、心の中では思ってしまいます。人間は感情的な生き物ですからね。

 

スポーツに限らず、普段の仕事でもそうです。

業務の負荷が高くなると、周囲のメンバーに対して不機嫌な態度を見せたり、強い言葉遣いになりそうになったりすることが、私にはあります。

 

そういった状況下でも、「この人がいるから安心して仕事が出来ているんだ」という視点で考えること

そう言ったマインドを身につけていきたい、そう思いました。

 

この名言を言った「望コーチ」、顔は怖いけど本当に良い人です。顔は怖いけど。

 

 

まとめ

  • 考えること、理解することから逃げてはいけない。
  • 未熟だったとしても、「だからどうするか」を考える。
  • 相手ならどうする?と立場を変えて考えてみる。
  • ミスは目立ってしまうが、それが全てではない。支えてくれるところに注目しよう。

 

 

紹介した作品

アオアシ』 著:小林有吾

 

  • この記事を書いた人

イナ

本業は設計者。28歳。書評とコラムを発信する、当サイトの管理人。気ままに記事を更新します。日課は読書と筋トレ。深夜ラジオとADVゲーム好き。

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