【書評】だから、君はどうする? 『アオアシ』から学ぶべき思考。
今回は、私が今最もハマっている漫画、『アオアシ』を紹介する記事になります。
これは本当に面白い漫画なので、是非多くの方に知ってもらいたいです。
ジャンルとしては「サッカー漫画」になるのですが、皆さんが想像しているサッカー漫画とは一線を画します。
私は『アオアシ』を読んでから、「サッカー」というスポーツに抱いていた価値観が大きく変わりました。
読んだ方の多くが、「サッカー」を見る目が変わるようになる漫画です。
特に、こういう風に思っている人にこそ読んでもらいたいです。
こういう人に読んでもらいたい!
- サッカーの試合をテレビできちんと見たことがない。
- 小学生・中学生の頃に体育でやっていたけど、サッカーの楽しさが分からなかった。
- 観戦していても、中々点が入らないし、途中で飽きてしまう。
- ポジションだったり、ルールが複雑だったりで、理解することが面倒臭い。
皆さんはいくつ当て嵌まりましたか?
ちなみに、これらの質問は、私がサッカーに関して抱いていた感想そのままです。
やってても見ていても、イマイチ面白さが分からないなあ、と思うスポーツでした。
そんな私が25歳にして初めて、サッカーというものの本質に気付かされたのが、
この『アオアシ』という漫画でした。
具体的な紹介の前に、どんな漫画なのかを『ワンピース』で例えると、
“結果を出さないと殺されてしまうロジャー海賊団で、見習いとなったバギーが主役の漫画”です。
はい、何言っているのかさっぱり分からないと思うので、あらすじから入っていきます。
作品を紹介する都合上、多少のネタバレは含みますので、あらかじめご注意下さい。
あらすじ
物語の主人公:青井葦人(アオイ・アシト)は愛媛で暮らすサッカー少年。
地元では敵無しの、めちゃくちゃサッカーが上手い奴です。あと髪の毛の癖がすごい。
中学最後の試合は、自身の退場により敗北を喫してしまいますが、
その試合を見ていた「東京シティ・エスペリオン(C.E.)」というJユースチームの監督である、
福田達也から入団セレクションの挑戦権を与えられます。
そこから、Jユースを舞台とした彼のサッカー人生が始まっていく・・・という物語です。
Jユースとは?
Jユースといってもピンとこない方も多いと思うのですが、要するにサッカークラブのことです。
部活動との違いをざっくりいうと、「小学生から一貫した指導体制で育成する組織」といったところでしょうか。
トップチームへ入団するには、クラブから昇格を認められる必要があります。
昇格すれば、トップチームと同じ練習をすることが出来るので、
世間的には「プロサッカー選手への近道」という印象があると思います。
概ね、そういったイメージで間違いありません。
サッカーのプロを目指す、優等生が集まる場所です。
『アオアシ』の主人公、青井葦人は入団試験を受けて東京C.E.に入りますが、
他には外部からのスカウト、昇格生等もおり、様々な境遇のメンバーでチームを組むことになります。
『アオアシ』の魅力
『アオアシ』の名シーンを細かく挙げていくとキリがないので、大分端折りながら進めていきます。
この記事を読んで興味を持った方は、是非、漫画喫茶などで試し読みすることをオススメします。
読んでみたら、最新刊まで読み進めてしまうことを保証します。
私が『アオアシ』を初めて読んだのが、「ウェルビー栄」という名古屋のサウナ施設に宿泊したときだったのですが、
本当に徹夜する勢いで読み進めてしまいました。
まずは、『アオアシ』が如何に革新的なサッカー漫画なのかというところを、紹介します。
- 主人公のチームが「最強」であること。
- 得点シーン以外の部分が面白いこと。
- スキルではなく、ロジックで戦うこと。
- 主人公のポジションがDF(ディフェンダー)であること。
- 「最強」であるが故に追い詰められること。
主人公のチームが最強
主人公が所属することになる東京C.E.というJユースは、小学生の頃からプロを目指してサッカーをやってきた、エリート中のエリートです。
そういった人達が集まった集団なので、個々人のスキル、サッカーの戦術は圧倒的。
一般的な高校相手なら、戦う前に勝負を諦められてしまうような存在です。
実際に、チームのトップ数人は日本のU-18代表選手に選ばれている程です。
対して、主人公のアシトは地元では敵なしだったとはいえ、あくまで田舎レベルの話。
東京C.E.に入団してからは、周りの同期と比べて、自分の実力が遥かに劣っていることを思い知らされます。
こんな風に、主人公が一対一の状況に持ち込まれたら、基本的に負けます。
物語における戦闘能力のバランス感覚は、アニメ『コードギアス』のルルーシュに似ているかもしれません。
『コードギアス』知らない人はすみません。
得点シーン以外の部分が面白い
アシトは周囲より能力で劣っている為、1人で突き進んで、状況を打破するという場面はほとんどありません。
・・・では、どうやって活躍するのかというと、「指示(コーチング)」で周囲を動かし、ゲームを動かしていきます。
何故そんなことが出来るのかというと、アシトは「俯瞰」という力を持っています。
簡単に言うと、「視野」が異常に広く、コートを上空から見下ろしているかのように動くことができます。
その力は、コート全体の味方・相手全員の位置を記憶し、試合の流れを予測できる程です。
要は、プレイヤーではなく“司令塔”という能力を伸ばしていくことで、アシトの才能は真価を発揮していくことになるんですね。
得点シーンもめちゃくちゃ盛り上がるのですが、そこに至る過程。
こういった“コーチング”の場面が本当にカッコ良く、印象深く描かれます。
スキルではなく、ロジックで戦う
サッカーというスポーツで勝つ為には、もちろん個人のスキルも大事です。
ーが、それ以上に大事なのは組織的に動き、ロジックで勝つこと。ここは後で掘り下げます。
例えば、6巻のこの場面。
チームメンバーとの連携すら上手くいっていなかったアシトが、客観的に自分のプレーを振り返ることで、
自軍の攻撃時にメンバー2人が一定の距離を保っていることに気づきます。
そして、「サッカーの基本はトライアングル」という戦術を身につけて、試合を有利に運んでいきます。
勘や勢いではなく、
- 相手ならどう動くか?
- 自分が味方のポジションにいるときに、どこに居て欲しいか?
周囲の戦況から自分のやるべきこと、その瞬間における最適解を考えて、状況を打破していきます。
主人公のポジションがDF(ディフェンダー)
これは本当に、サッカー漫画における革命だと言われています。
アシトは物語の冒頭ではFW(フォワード)というポジションに着いています。要は攻撃役ですね。
『アオアシ』に限らず、世の中のほとんどのサッカー漫画はそうだと思います。
スポーツ漫画なので、「主人公が得点を決めて勝利する」という場面はお約束事ですし、
読者もそういう展開が見たいですよね。
そして、それは主人公であるアシトも同様。むしろ、皆さんが思っている以上に熱いFWで、
「俺が点を決めて勝つ!」
「世界一のFWになる!」
そういった目標を持ってサッカーに向き合っている主人公です。
実際に、試合でもここぞという場面でしっかりと点を決めてくれるので、
徐々にチームメンバーから認められるようになっていきます。
しかし、東京C.E.の監督である福田達也からは「FWでは通用しない」と断言されてしまいます。
最初はFWとして起用しているのに、途中でDFにポジション変更しろと言われるんです。
驚愕の展開ですよね。
アシトがDFに転向するのは7巻からになります。
主人公が守備役になることで、面白くなくなるのでは・・・?と、普通なら思いますよね。
ご安心ください。
そこから、更に『アオアシ』は加速度的に面白くなっていきます。
チームが最強であるが故に・・・
スポーツ漫画といえば、追い詰められてからの逆転勝利!というのが見どころですよね。
『アオアシ』ももちろん、そういった王道の展開をしっかり抑えています。
別の作品になりますが、『カイジ』が何であんなに面白いのかというと、
“主人公がメチャクチャ追い詰められるから”だと思っています。
1巻から大ピンチの状況になり、首の皮一枚でなんとか生き延びる。
そういった命と命のギリギリのやり取り、真剣な攻防の連続が、最後にカタルシスを生むわけです。
『アオアシ』でも、アシトはかなり追い詰められます。
「俺は絶対にプロになる!」という目標を掲げて、東京C.E.に入団する訳なので、
(本人的には)背水の陣という状態なんです。
ただ、先述した様に主人公のチームは最強です。
基本的に相手が強すぎて敵わないという展開はありません。
ーじゃあ、誰に追い詰められるのかというと、味方から追い詰められます。
上の画像の時点では、アシトが未だ入団する前の試験段階ですが、1つ上に阿久津という超強い先輩がいます。
この阿久津が曲者でして、アシトと顔を合わす度に「才能がないから辞めろ」、「鬱陶しい」といった侮蔑の言葉をぶつけてきます。
阿久津ほどではありませんが、他のメンバーもプライドが高く、
実力が追いついていない者に対しては「お前がいると練習にならない」ということを平気で言ってきます。
そして、東京C.E.では見込みのないと判断された選手は、
「ウチでは通用しない」と切り捨てられることもあります。恐ろしい世界です。
そこからアシトがどうやって食らいついていくのか、どうやって追いすがっていくのか。
これも作品の大きなポイントですね。
真剣にサッカーを学び、吸収していく主人公の姿は、見ていて気持ちが良いです。
余談になりますが、先ほど紹介した阿久津。
まあ嫌な奴ではあるんですが、私が『アオアシ』でトップクラスに好きなキャラクターです。
元々、主人公よりヒール役や悪役の方が好きというのも、理由としてあります。
ですが、それ以上にとても人間臭さが感じられるキャラクターなので、気に入っています。
阿久津やアシトに限った話ではなく、『アオアシ』の世界では選手全員、葛藤します。
敵にも味方にも感情移入できて、不快なだけのキャラクターは殆どおりません。そういったところも魅力の一つですね。
思考力:インテリジェンス
『アオアシ』の作品のテーマは、“考える”ことです。
サッカーは、11vs11でボールを運ぶスポーツです。
そう書くと単純ですが、実際には戦況が目紛しく変化し、攻撃/守備も著しく切り替わります。
圧倒的スキルを持っていたとしても、1人では何も出来ません。
だからこそ、選手に問われるのは「個人戦術」になります。何だか難しい言葉ですが、作中ではこのように表現されています。
選手達がフィールド上で自ら思考して最良手を探り、試合状況に合わせて自分のプレーを変えていくこと。
自発的に考えることができない選手は、臨機応変に戦局が変わるサッカーについて行くことは出来ません。
周囲より劣っている事を自覚した上で、
「だから、どうするか」を考える主人公達の姿は、日常をつい思考停止で生きてしまう私たちにとって、大きな刺激になります。
サッカーに限った話ではなく、世の中を生きて行く上で、参考にすべき姿勢だと私は考えます。
サッカーの見方が変わる名シーン
最後に、めちゃくちゃ名場面ではないかも知れませんが、個人的に感銘を受けたセリフを紹介します。
11巻での「武蔵野高校」との戦いで、1点ビハインドで前半終了した、ハーフタイムの場面です。
対策を議論する訳ですが、チームには重い雰囲気が流れます。
「DFが突破されるから攻めることも出来ない」と、感情的に味方を責める選手も表れます。
その意見に対し、東京C.E.のヘッドコーチは冷静に「それは違う」と言います。
DFはベストメンバーであり、このメンバーでなければもっと点を取られている。
チームを支えてくれるDFをフォローする、とても良い場面ですね。
この「DFはどうしても失点シーンだけを切り取られてしまう。」というのが、深いセリフだと思います。
普段私たちがTVでスポーツを観ていると、つい熱くなってしまって、
「お前何やってんだよ!」
「ミスするんじゃねーよ!」
と言ってしまいがちです。
言葉にはしなくとも、心の中では思ってしまいます。人間は感情的な生き物ですからね。
スポーツに限らず、普段の仕事でもそうです。
業務の負荷が高くなると、周囲のメンバーに対して不機嫌な態度を見せたり、強い言葉遣いになりそうになったりすることが、私にはあります。
そういった状況下でも、「この人がいるから安心して仕事が出来ているんだ」という視点で考えること。
そう言ったマインドを身につけていきたい、そう思いました。
この名言を言った「望コーチ」、顔は怖いけど本当に良い人です。顔は怖いけど。
まとめ
- 考えること、理解することから逃げてはいけない。
- 未熟だったとしても、「だからどうするか」を考える。
- 相手ならどうする?と立場を変えて考えてみる。
- ミスは目立ってしまうが、それが全てではない。支えてくれるところに注目しよう。
紹介した作品
『アオアシ』 著:小林有吾