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【コラム】少女たちが空で闘い、恋を知るADV
あおかな
今回は、2014年にspriteより発売されたADVゲーム、『蒼の彼方のフォーリズム』を紹介させていただきます。
結論から言います。間違いなく面白い作品です。
自分の全てを懸けられるくらい、何かに夢中になったり、頑張っても勝てない自分に涙したり。
年を重ねるにつれて失ってしまった大切な感情を思い出させてくれるような、そんな作品でした。
普段ADVゲームをプレイしない人にとっても、非常に薦めやすいと思いました。
完成度の高い設定と、王道でストレートな恋愛物語が融合した、青春スポ根群像劇です。
これがあれば、どこへも行けると。
誰よりも先に、彼方へと行けると。
そう、信じていたー
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ココに注意
致命的なネタバレは避けますが、
全くの初見の状態で作品を楽しみたい方はブラウザバックを推奨します。
記事の構成:
- ストーリーの紹介
- 良かったところ
- 気になったところ
- キャラクター紹介とシナリオの感想
- 統括
では、レビューさせていただきます。
ストーリー
空を飛ぶことが、自転車に乗るぐらい簡単にできる世界。 そこで流行しているスポーツ「FC」。 かつて、そのスポーツで将来を期待されていた主人公は、 圧倒的な敗北による挫折と、ある理由からそこを離れていた。 だが、転校生である倉科明日香と出会い、 空の飛び方を教えるうちに、昔の熱が戻ってくる。 立場が変わっての「FC」への出場。 明日香の手を握った主人公は、 今度はどこまで高く飛べるのか。 ふたりと、その仲間たちが贈る青春恋愛物語。 引用:https://aokana.sprite.net/story/
FC(フライングサーカス)
空を駆けて行われる架空の競技で、本作のメインとなる“新興スカイスポーツ”です。
反重力を発生させる「アンチグラビトンシューズ(通称:グラシュ)」を利用し、
制限時間内にどれだけ多くのポイントを獲得できるかを競います。
参照リンクはこちら!
『蒼の彼方のフォーリズム』独自の競技“フライングサーカス”ってどんなスポーツ? |animate Times
早い話、空中での追いかけっこです。
FCの選手は総称して「スカイウォーカー」と呼ばれ、競技スタイルによって3つのタイプに分類されます。
- スピーダー:相手との近接戦闘を避け、ブイにタッチすることで得点を狙う。
- ファイター:相手の背中にタッチすることでの得点を狙う。
- オールラウンダー:スピーダーとファイターの中間でバランス型。
それぞれのスタイルによって初速と最高速が違っていたり、
次のブイへのショートカットが認められていたり、
本作独自の要素、技術、原理。それらを利用した勝負の駆け引き・・・
シンプルな様でいて、FCというゲームの設定は奥深く作り込まれています。
あらすじ
主人公:日向昌也は「四島列島」に住む久奈浜学院の2年生。
転校生である倉科明日香のグラシュ指導員に任命されたことをきっかけに、
久奈浜学院のFC部に入部することになる。
明日香たちにFCを教えることになった主人公は、強豪校との合宿、部活内での部員との交流を通して、
本格的に彼女たちのコーチとして活動していくことになる。
そして迎えた夏の地区大会。
全国トップクラスの選手である真藤一成の前に、久奈浜学院のFC部員たちは奮闘むなしく敗退。
当代最強のスカイウォーカー:真藤一成が予想通り優勝。
誰もがそう信じて疑わなかったがー・・・。
ここまでが、共通ルートの物語になります。
そして、ここから先は、プレイヤーが選択したヒロインが中心となる物語が始まります。
良かったところ
私が実際に本作をプレイして、魅力的に感じたポイントを簡単に紹介します。
FCの場面が純粋にカッコいい
本作の評価点として、まず第一に挙げられるのがFCの描写です。
- 美麗なグラフィックで描かれる、FCの軌跡(コントレイル)。
- ここぞというタイミングで挿入される、キャラクターのカットイン。
- 試合の展開を効果的に盛り上げてくれる、完成度の高いBGM。
上の画像を見てもらうと分かる通り、とにかくFCが魅力的。
胡蝶抜きに、全試合面白かったです。
主人公側のプレイヤーが負けると分かりきっている試合でも、
夢中になってプレイすることが出来ました。
キャラクターが全員、魅力的
主人公、メインヒロインといった物語の中心となるキャラクターはもちろん、
彼らを取り巻くサブキャラクターたちも魅力的に描かれています。
例えば、何かとメタ発言が多いマネージャーの青柳窓果ちゃん。
かつて、主人公にFCを教えた師匠であり、FC部の顧問を務める各務葵さん。
エヴァの碇シンジ役で有名な緒方恵美さんが声優を務めており、超イケボです。
外見だけではなく、中身まで本当にカッコいい女性でした。
そして、全国トップクラスのFC選手として登場する、真藤さん。
アニメ版では“紳士的でひたすら強い人”という印象でしたが、
原作ではこんなに面白い男だったのかと、いい意味で驚きでした。
FC以外の日常パートも、キャラクター同士の会話劇が非常に面白く、プレイヤーを飽きさせません。
ADVゲームとしてはそれなりのボリュームがあるシナリオでしたが、
最後まで楽しくプレイすることが出来ました。
熱くて甘酸っぱい青春スポーツもの
このゲームは、4つのシナリオに分岐する構造になっております。
どのシナリオにもヒロインが倒すことになる“ライバル”が存在しており、
FCに切磋琢磨し、挫折や成長を繰り返しながら、「勝利」を手にするために努力を重ねる。
少年マンガ顔負けの熱い展開が待ち構えています。
各ヒロインのシナリオはそれぞれ「テーマ」が違う為、どのルートをやっても新鮮な気持ちでプレイできます。
物語の目的がハッキリ描かれており、読んでいて中弛みを覚えることはほぼありませんでした。
また、ヒロインたちがFCに本気になっていく中で生まれる、主人公との恋愛模様も甘く爽やかに描写されており、
シナリオの展開にストレスを感じることはなく、物語の面白さに相乗効果を起こしていたと思います。
あと、個人的に良かったのは、他のヒロインの扱い方です。
恋愛ADVの場合、ある特定のヒロインのシナリオを進めていくと、
それ以外のヒロインは物語の展開的に“空気”になってしまうものですが、
『蒼の彼方のフォーリズム』は違いました。
どのルートをやっても、別のヒロインに対して好感を持てるような場面が数多く描かれており、
プレイヤーに未攻略ルートへの期待を持たせ、先の展開にワクワクさせられる構造になっております。
全シナリオ、面白かったです。
シナリオに話数表記があるのも個人的に良かったポイントです。
プレイ中の区切りがつけ易く、どれくらいでシナリオが終わるかの指標にもなってくれました。
気になった点
ゲームをプレイしていて、多少気になった部分も軽く紹介します。
展開が読める
シナリオは全体的に高評価なのですが、王道的な物語であるが故に、展開が読めてしまいます。
例えば、主人公が過去に挫折を受けた要因となる“少年”の正体とか。
物語から受ける衝撃度はあまり無かったです。そういうゲームではないので、仕方ないことですけどね。
サウンドモード非搭載
BGMめちゃめちゃいいのに、音楽鑑賞モードは存在しません。
「サントラを買ってください」ということでしょうか、公式さん。
蒼の彼方のフォーリズム Vocal & Sound Collection 限定版
メインキャラクター紹介
ここからは、メインヒロインの紹介と、それぞれのルートの感想を書きます。
このゲームにルートロックは存在しないので、どの順番からでも攻略可能です。
普通に物語を進めていたら、明日香→真白→莉佳→みさきの順番になりますので、この記事でもその順番で紹介します。
倉科 明日香(くらしな あすか)
本作におけるメインヒロイン。
グラシュを履いたことすらなかった超初心者だったが、FCに対して驚くほどの素質を持っており、
潜在能力は全キャラクターの中でもトップクラス。
プロのFC選手だった各務葵をして「化物」と称される程に、
彼女の才能は真価を発揮しはじめていく。
明日香ルートを一言でいうなら、超王道。
気持ちいいくらいに真っ直ぐストレートの、青春恋愛物語でした。
全国の覇者である真藤一成をも打ち破った“空域の支配者”、乾沙希を倒す為の物語。
久奈浜学院のFC部全員、ライバルの高藤学園の生徒までもが明日香の育成に力を貸し、
最強のFC選手である乾を超える為、秋の大会に臨みます。
乾のセコンドを務めているイリーナが、分かりやすく主人公たちに対して敵役ムーブしてくれるので、
何も考える必要もなく、素直に盛り上がることが出来ました。
「ティロ・フィナーレ!」とか撃ちそうな見た目と声をしているイリーナでしたが、
マミることはなかったので、そこは安心して見れました。
シナリオのラストで描かれる、明日香と乾の決勝戦。
全シナリオの中で、一番アツかったです。
まさに頂点 vs 頂点の戦い。
ここは是非、ゲームをプレイして見て欲しいです。
特に、ゲーム版の主題歌が流れ始める場面の演出が神がっていて、
直前でセーブデータを作成して何度もプレイしてました。
文句の付け所のない完成度のシナリオでした。
有坂 真白(ありさか ましろ)
ヒロインの一人である鳶沢みさきを敬愛している、主人公たちの後輩の一年生。
FC部にはみさきを追いかける形で入部することになる。
真白ルートを一言でいうなら、凡人の懸命な努力を描いた物語。
明日香やみさきといった他ヒロインと比べると、FCに対する天性の才能は持ち合わせていない為、
公式試合では一勝することも叶いません。
実力者たちに負け続け、人目を隠れて泣き続ける場面には、心を打たれたプレイヤーは多かったと思います。
個人的には、一番感情移入しやすいキャラクターでした。
真白ルートの終盤。部活からいなくなってしまったみさきを連れ戻す為、主人公と交わした約束を果たす為、
憧れの人と対決する展開は、明日香ルートとはまた違った味わいのアツいシナリオ。
才能があろうがなかろうが、そんなのどうでもいいじゃないですか。
わたし今、努力が楽しいです!
また、全ルートの中でも恋愛要素が強く、一番笑ったシナリオでもあります。
友達の家にあったヌイグルミに憑依して、シュールなミニコントが唐突に始まったときは、
自分の頭がおかしくなったんじゃないかと思いました。
ボーボボかな?
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市ノ瀬 莉佳(いちのせ りか)
主人公の家の隣に引っ越してきた女の子。FCの強豪、高藤学園の一年生。
生真面目で圧倒的な女子力を誇るが、器用貧乏でもある。
メインヒロイン4人の中では唯一、他校の生徒。
「お隣さん」という属性がある為、そこに配慮した形なのでしょう。
人気投票の結果では、残念なことに最下位。
ゲームカタログ@Wikiでも、賛否両論点に最も多く莉佳のシナリオが挙げられている。
ユーザーからの感想にあった意見として、このレビューには凄く納得が行きました。
好きか嫌いかって言われたら、そりゃ確かに好きなんだけど、
癖が無さ過ぎるせいで他の個性あるキャラの中じゃ埋もれがち。
つまり「好きなキャラの中で一番好き」というのになり難いタイプ。
とはいえ、実際にプレイしてみたら彼女にもしっかり魅力があって、
シナリオの質も作品のクオリティを落とす程のものではなかったです。
最後の決着が、ちょっと雑だったかな? と感じたくらい。
あと、本シナリオとは全然関係ないですが、莉佳の声がモロに『WHITE ALBUM2』というゲームのヒロイン:雪菜だったので、
『WHITE ALBUM2』をプレイしていた当時を思い出して、最初は苦しかったです。
・・・声優さんが悪い訳では、全くないのですが。
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(何故、苦しかったのかについては、上の記事を読んでもらうと分かると思います。アホほど長いけど。)
この莉佳ルートでは、危険なラフプレーを繰り返すライバルキャラクターとの対決が、ラストに待ち構えています。
試合の直前、莉佳の先輩である佐藤院さんが激励してくれるのですが、ここが良かったですね。
このゲームをプレイして、佐藤院さんを嫌いになる人はいない。
鳶沢 みさき(とびさわ みさき)
黒の長髪、スタイル抜群の超マイペース系ヒロイン。
主人公や明日香のクラスメイトで、“天才肌”という言葉がピッタリの、つかみどころのないキャラクター。
本作のメインヒロインは明日香ですが、主人公にとってのヒロインはこの子だったのかなって思います。
公式も力を入れて作っているのがよく分かるヒロインでした。何せHシーン5つもあったからな。
みさきルートを一言でいうなら、挫折した天才の復活劇。
圧倒的なFCの才能を持っていますが、次元の違う乾の実力に呆然としたり、
どんな窮地に追い込まれても「楽しい」と笑顔を見せる明日香の才能を怖れたり。
メインヒロインである明日香のシナリオと比較すると、劣等感やコンプレックス、嫉妬。
負けることに対する恐怖といった、ヒロインが抱く「負」の感情が数多く描写されます。
決して“鬱展開”ではないのですが、明日香が「陽」のヒロインだとすると、
みさきの物語は「隠」の部分が強いという印象を受けました。
才能を持ち合わせているが故の、苦悩。
それでも主人公がみさきを“天才”だと信じてくれたから、
一度は諦めてしまった勝負の舞台に、再び立つことが出来ました。
物語の“爽やかさ”でいえば、圧倒的に明日香ルートになりますが、
勝負に付きまとう生々しい人間の感情は「みさきルート」の方で描かれていて、
どちらが好みかは人によるかと思います。
個人的には、明日香ルートに負けず劣らずの良いシナリオでした。
みさきが「あたしのままで、あたしがここにいることが怖くない」と、主人公に告白する場面は感動しましたね。
日向 晶也(ひなた まさや)
本作の主人公。
かつては世界に挑戦できるほど有望なFC選手だったが、周囲からの期待と重圧。
そして、自分よりも遥かに才能を持っている存在と出会ってしまったことで、
FCを辞めて、日常生活でさえもグラシュを履かなくなってしまったーという少年。
物語全体を通して、非常に好感の持ちやすい、良い主人公でした。
イケメンで誠実で、高校生らしい弱さもあって、主人公の印象が悪くなることはほとんどありませんでした。
天然系のヒロインが多い本作なので、ツッコミ役に回ることが多い苦労人。
あるルートでは、自分が明日香に魅かれていたことを自覚しながらも、
別のヒロインと恋人同士になる、少し切ない場面があります。
それでも彼は、真正面から明日香に向き合って感謝を伝え、「もう未練はない」と、淡い恋心から手を離します。
切ないけれど、全く後味の悪くない展開は、見ていて気持ちが良かったですね。
『WHITE ALBUM2』の主人公は、何で同じことが出来なかったのか・・・。
統括
本作をプレイする前に、全12話のアニメ版を視聴しておりました。
実際に原作ゲームをやってみると、ゲーム版の方が圧倒的に面白かったです。
ファンの方が「原作をやって欲しい!」と、口を揃えて言うのも頷けます。
アニメ版はヒロインとの恋愛要素、主人公の過去の出来事といった描写が大幅に削られていて、
原作の魅力が十全に引き出せている訳ではありませんでした。
全12話しかないので、仕方のないことですが。
私のように、アニメを観て興味を持った方であれば、尚更ゲーム版をプレイして欲しいですね。
最後に
『蒼の彼方のフォーリズム』は様々なパッケージで発売されているので、どれを購入すれば良いか迷うかもしれません。
大別すると、以下の3バージョンが発売されています。
『蒼の彼方のフォーリズム』 ※無印版
『EXTRA 1』※真白ルートの続編
『EXTRA 2』※みさきルートの続編
残念なことに、これら全てが一つになったバージョンは、未だ発売されておりません。
とりあえず本編だけプレイしたい!という方は、『Perfect Edition』一択です。ただ、R18ですが。
私はPCでプレイする方が楽なので『Perfect Edition』を購入しましたが、
未成年の方にとっては全年齢の『High Resolution』や、SwitchやPS4などのコンシューマー版で遊ぶことも出来ます。
私の師匠曰く、『EXTRA 2』が非常に面白いとのことでしたので、いつかやろうと思います。
それ以外にも勧められている作品がまだまだあるので、当分先の話にはなりそうですが。
紹介した作品