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【感想】奇跡も、魔法も、ないけれど・・・。
-Aster- ギリシャ語で「星」
今回は、2007年に発売されたADVゲーム、『Aster』を紹介させていただきます。
一人の少女との死別。それに関わってしまった少年少女たちの悲劇の連鎖。
その先で待ち受けている運命を、群像劇の形式で描いた、ビジュアルノベルです。
本作は18禁恋愛アドベンチャーゲームです。
アダルトゲーム業界で働いている友人の紹介で、この作品をプレイしました。
(以前にも『さくら、もゆ。』や『蒼の彼方のフォーリズム』等をオススメ頂いてます。)
15年前の作品で、知名度的にも高くはないですが、「隠れた名作」と呼ばれているゲームです。
わずか一週間で完走した友人から、私の元にこんなLINEが届きました。
「我が家にあったAster、めちゃ良かった。ちと古くて荒いところもあるけど後悔はしない。
早く続きが気になって終われなくなった。」
自宅に当たり前のようにエロゲが置いてある状況の方が、気になりましたが・・・。
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絵の雰囲気。そして、暗い空気感が満ち溢れているストーリー。
パッケージを一目見たときから惹かれるものがあったので、翌日にはポチってました。
完走した感想としては・・・
「隠れた名作」という評価に嘘偽りなしの、心を動かされる物語でした。
ただ、安易に「神ゲー」と断ずるには少し物足りないところもありましたので、
そのあたりを含めて今回の記事で紹介させていただきます。
記事の構成:
- ストーリー紹介
- 良かったところ
- 気になったところ
- 各シナリオの感想
- 統括
ココに注意
致命的なネタバレは避けますが、
全くの初見の状態で作品を楽しみたい方はブラウザバックを推奨します。
1.ストーリー
北稜学園付属校へ通う榊宏(主人公)と、幼馴染の双子の姉妹・沙希と沙耶。
ずっと変わることのなかった三人の関係は、とある出来事から大きく変化していく――
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先述した通り、本作は群像劇の形式となっており、3部構成となっています。
選択肢によるルート分岐は存在せず、ストーリーはほぼ順不同の一本道です。
第1部:沙耶編
沙耶と宏、二人の恋と突然の別れ。
第2部:美幸編、雛編、はるな編、沙希編
沙耶の死に関わった関係者たちの物語。
主人公とヒロインが切り替わり、それぞれの視点で物語が展開する。
第3部:アフターストーリー
第2部以降の、4つの物語の後日談。
アフターストーリーまで全てプレイすると、最終章の「Aster」が解放されます。
この最終章は、メインの物語である沙希編のエピローグとなっており、
これを見届けることで『Aster』はEDを迎えます。
3部構成と聞くと、もの凄く重厚なシナリオに感じるかもしれませんが、
プレイ時間で言うと20〜30時間で終わるくらいのボリュームです。
特徴
本作の最も大きな特徴は、死別が確定しているヒロインとの物語から始まること。
第1部では主人公:ヒロと、両想いである幼馴染の沙耶、二人の甘い恋愛物語が全編で描かれます。
冬が近づいてきたある日、妹である沙希の口から沙耶が死んでしまったことが告げられ、
ここではじめて本作のOPが流れます。
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そして、第2部からは主人公とヒロインが異なる3つの物語が展開され、
その3つの物語が終わった後に、メインストーリーである沙希の物語が解放され、
恋人を失ったヒロが、どうなってしまったのか明らかになる・・・。
ーというシナリオ構成になっております。
2.良かったところ
OPが流れたタイミングから分かる通り、本作は沙耶が亡くなってからが本番です。
あんなに幸せな日々を過ごしていた彼女に、一体何があったのか・・・。
長閑でどこか退屈な日常から、一気に物語の空気感が変わります。
そんなプレイヤーを焦らすかのように、ここから始まるのは全く別の人達の物語。
彼らのシナリオを進めて行くうちに、沙耶の身に何が起きたのかが分かってきます。
群像劇形式で徐々に明かされる事件の真相。
“交通事故”という誰にでも起こりうる不幸。
巻き込まれてしまった人、巻き込んでしまった人。その背景にあったのは、残酷な偶然。
被害者、加害者、周囲の人々。
立場は違えど、彼らの前には辛く悲しく、どうしようもない運命が待ち受けています。
奇跡も魔法もない。願いなんて届かない世界で、失意の底に落ちた人たちが、
それでも、明日を生きていかなければいけない・・・。
どの時代にもある「生きる」というテーマを、「交通事故」という事件を掘り下げることで描いており、
現実社会に生きる私たちにとって、直情的に訴えかける作品だと思いました。
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とにかく続きが気になる構成になっていて、プレイし始めてから3週間足らずでクリアしてしまいました。
3.気になったところ
全体的に“駆け足気味”という印象を受けました。
描写不足とまでは言いませんが、物語のターニングポイントとなる場面の幾つかは、
もっと丁寧に描いて欲しかった部分もありました。
実際、本作の賛否両論点にも同じ指摘が挙げられていて、
物語の盛り上がりに欠ける印象があったのは、作品の評価として「惜しい」と思います。
「人の死」というテーマを丁寧に描いている作品ですが、個人的には、
- そんな簡単にその決断に至れるのかな?
- もっと葛藤する描写があっても良かったのでは?
ーと、感じる場面も少なからずありました。
扱っている題材のリアルさにしては、シナリオの臨場感がいまひとつ足りない。
物語に完全に没入し切れないところがあったのは確かです。
せめて、作品のメインとなる沙希の物語は、特別扱いにしてじっくり描いても良かったのかなって思います。
もちろん、長けりゃいいってものではありませんが。
4.各シナリオの感想
では、ここからは実際に本作をプレイした感想をざっくり書きます。
【柚月沙耶編】
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―はじまりは、大切な人を失った時―
宏と沙耶。互いに想い続けてきた二人は遂に結ばれ、甘く幸せな毎日を過ごしていた。
しかし、その日常は前触れもなく、あっさりと終わってしまう。それは……。
『Aster』の始まりとなる章。
ゲーム説明文にもある通り、この沙耶の物語は「ヒロインの死」という最悪の形で、唐突に幕を閉じます。
ただ、このシナリオ自体は結構長いです。じっくりやれば5時間以上かかります。
話に大きな起伏はなく、のんびりとした幸せな日常の描写が、ひたすらに続く感じです。
沙耶の声も結構特徴的なので、合わない人にとってはこの冒頭で投げ出す人も多そうです。
主人公とようやく結ばれ、プレイヤーにとっても愛着が沸いてきたタイミングで、
ヒロインは帰らぬ人になってしまいます。
そこに大きな前振りがあった訳ではなく、本当に日常の途中で悲劇が起きてしまうので、
展開が分かっていても精神的ダメージが大きかったです。
OPが流れた後、ゲームタイトル画面に戻り、ここから3つの物語が展開されます。
(※攻略の順番はプレイヤーが任意で選択可能。)
【山吹美幸編】
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―悩み、苦しみ、そして美幸が辿り着いたのは―
想いを寄せあう正人と美幸。互いの気持ちを確かめ合った二人の想いは、
確かな形となって実を結ぼうとしていた。
そんなある日、美幸の心にとある影が射し始め……。
この物語は、沙耶編とは別の学校が舞台になります。
剣道部員である小田巻正人と、学級委員長の山吹美幸は、同じクラスで密かに想いあっている関係。
そんな、どこにでもありそうな、平穏な学園生活。
冬が近づいてきた頃、入院生活を続けていた美幸の母親の病状が悪化して、
そしてー・・・。
ーここから、残酷な運命の輪が動き始めていきます。
事件において直接的ではないですが、“加害者側”にいる人たちの物語。
偶然が重なった結果ではありますが、このヒロインの行動が、無関係な多くの人々を不幸にしてしまいました。
嫌な言い方をしますが、「もっと痛い目に遭っても良かったのでは?」という気持ちです。
その方が、物語により緊迫感が生まれ、結末に対する説得性も大きくなったと思います。
【小田巻雛編】
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―雛の母親からの一本の電話が、物語を紡ぎだす―
「喫茶ハカランダ」でバイトに励む学生・京次は、
後輩・雛に振り回されつつも、楽しく幸せな日々を送っていた。
だが、バイト先に入った一本の電話で……
この物語のヒロインは、美幸編の主人公:正人の妹。
その為、「美幸」のシナリオと繋がる部分も多いです。
主人公である柳京次とは最初から恋人同士の関係で、兄と同じ剣道部員。
沙耶が死ぬ原因となった交通事故に巻き込まれ、一時意識不明の状態に陥りますが、
特に大きな被害もなく、幸運にも雛は助かりました。
京次の性格が天然気味で面白く、コミカルな会話劇・夫婦漫才が繰り広げられます。
『Aster』というゲームにおける、癒し枠。
ーと思ったら。思ったら・・・。いやいや、こんなことが起こってしまうのかよと。
癒し枠どころか、全シナリオの中でもトップクラスに重く、残酷な展開が待ち受けています。
【姫萩はるな編】
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―大切な人を失う代わりに、出会った運命―
剣道部期待のホープ・萩原睦月と、モデルをしている校内の有名人・姫萩はるか。
接点がなく、言葉すら交わしたことのない二人だったが……。
主人公の母が交通事故を起こし、同級生の女の子(沙耶)を巻き込んで亡くなってしまったことが、
このシナリオの冒頭で語られます。
たった一人の肉親である母親が、無関係な他人を巻き添えに他界。
被害者遺族である沙希が、主人公と同じ剣道部に所属しており、
家にも学校にも、自分の居場所が無くなってしまった。
追い討ちをかけるように「人殺しの子ども」と影で囁かれ、陰湿な嫌がらせを受けるようになってしまいます。
世界から孤立してしまった暗闇の中で、想像もしなかったような出会いが訪れー・・・。
ーという、物語です。
正直、前半のストーリーは作中で最も微妙だと思いました。
とにかく、キャラクター同士の関係性が弱いと感じます。
主人公と母親の生活背景、そしてヒロインとの結びつきは、もう少し丁寧に描写して欲しかったです。
主人公の境遇を考えると、とても居た堪れない気持ちにはなりますが、
物語の展開を盛り上げるなら、もっと彼を追い詰めても良かった。
嫌がらせを受けるとはいっても特定のグループからだけなので、
クラス中から存在を無視されてしまうとか、仲の良かった友人にも拒絶される場面などがあれば、
クライマックスで主人公が救われるシーンが、より感動的なものになったと思います。
【柚月沙希編】
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―そこに奇跡は無い。けれど希望は在る―
沙耶の死。それは残された二人の心に暗い影を落とす。
大きく変わってしまった日常。それでも進んでいく季節。
二度と戻らない三人で過ごした日々を思いながら、沙希は……。
3つの物語を経て、ようやく解放されるメインシナリオ。
最愛の女性を失った主人公と、最愛の姉を失ったヒロインの物語。
二度と帰ってこない日常。それでも二人は前を向いて生きていく。
最後に交わした約束を守るために・・・。
いつかきっと、心から笑える日が来ることを夢みて・・・。
私からは、多くは語りません。
この『Aster』という作品は、このシナリオを描く為にあったと断言できます。
素晴らしかった。ただただ、素晴らしかった。
特に、沙希の声優を務めた青山ゆかりさんの演技力・表現力が素晴らしかった。
沙耶が亡くなってしまった直後の、電話口での震える声。
現実を受け入れようとしない主人公に対して、抑えていた感情を爆発させる名場面。
本当に、鳥肌が立つくらいの迫真的な演技力で、画面を食い入るように見ながらプレイしていました。
5.統括
全体的な描写不足は感じたものの、「名作」と称しても疑いのないくらい、心に残る作品だと思います。
3週間、夢中になって最後までプレイすることが出来ました。
作品の評価を落としている理由の一つに、「最初に発売されたソフトのバグが酷い」というのがあったそうです。
現在発売されている「普及版」や「DL版」では、問題なくプレイ出来ると思います。
ただ、私のPC環境に問題があったのか分かりませんが、
本当に一部、テキストとボイスが一致しない場面がありました・・・。
(調べると、パッチを当てても修正されていない箇所があったようです。)
一気に駆け抜けたので、ADVゲームをやるのは少し休憩しようかなと思います。
モチベが上がったタイミングで、また新しい作品を始めようかなと。
それでは、次回の記事でお会いしましょう。
紹介した作品
『Aster』 ©rusk