©SBクリエイティブ/堀江貴文
【書評】宇宙産業が今、アツいんです。
概要
堀江貴文さんが立ち上げた、宇宙ベンチャー企業「インターステラテクノロジズ(IST)株式会社」は2019年5月4日、高度約113kmを記録するロケットの打ち上げに成功。日本の民間企業としては初となる歴史的快挙に、世界中から注目を集めました。
本書では、堀江さんがISTを立ち上げるまでの軌跡や、
「何故、宇宙を目指すのか。」
「何故、宇宙進出しないといけないのか」
といった疑問に対する、堀江さんの主張・理由が論理的に語られています。専門用語が多少出てきますが、堀江さんの説明が分かりやすく、何より面白いです。私は元々宇宙好きなので、本書を読み終えるのはあっという間でした。
また、本書で語られる「宇宙進出しないといけない理由」については、私が現在エンジニアとして、直面せざるを得ない問題でした。この問題に対する、堀江さんの業界分析や、未来予測を知ることができたのは、とても勉強になりました。
本書の内容は以下の通りです。
- 何故、宇宙を目指すのか
- ゼロからのスタート
- 目指す場所
- 宇宙産業は今後の日本を支えるものであること
- 対談(堀江貴文✕稲川貴大:IST代表取締役社長)
当ブログでは、1〜4までの内容を、要点を絞って紹介します。では、スタートです。
宇宙開発の意義
堀江さんのロケット開発はニュースでも度々話題になるので、ご存知の方も多いでしょう。でも「なんでロケットをつくっているのか」ということについては、知らない人も多いはずです。
その理由は、大きく分けて下の2つです。
- 純粋に宇宙旅行を実現させたい。
- 宇宙開発の分野では、日本が主導権を握れる可能性が高い。
最初の理由だけ聞くと、「金持ちの道楽かよ」と思うかもしれませんが、本書を読めばそんなことは言えなくなります。詳しくは第2章で語られているのですが、堀江さんは何もない状態から泥臭い努力を続けて、ここまで来ているんです。
そもそも、宇宙旅行の実現は人類全体の未来に繋がることなので、「金持ちの道楽でも良いじゃん」と個人的には思っています。
そして、宇宙開発においての日本の優位性は、本書の中でも具体的に説明されます。まず、日本は世界で最もロケットの打ち上げに適している国です。
宇宙開発における日本の優位性
ロケットの打ち上げは安全のため、軌道上に人が住んでいる場所が無いということが大前提です。となると、基本的に下は海であることが好ましいわけです。
では、国の周りを海に囲まれている国を探してみると、思ったよりも限られているということが分かります。
今、宇宙ベンチャー企業として急成長している「スペースX」や「ブルーオリジン」も、打ち上げ場所や、部品をつくっている工場は本社とは別の場所にあり、距離も離れています。
ISTの本社がある北海道の大樹町は、東から南にかけて海に面しており、工場と射場が近いので、問題が起きても直ぐに対応できます。これは、他の国にはない大きな強みです。
宇宙開発は未発展の事業ですが、今後は衛星の打ち上げ需要が大幅に増えると予測されています。そして、衛星を打ち上げるためのロケットが必要になってきます。
開発の中心が国家から民間企業に移行していることで、コスト低下等の競争意識が働き、より安く、より良い製品が生まれていくことでしょう。
そうなったとき、日本の地理的なアドバンテージは大きい。だからこそ、主導権を握れるのだと堀江さんは述べています。
宇宙開発の恩恵
実際、宇宙開発が進んで私たちの生活に影響があるのでしょうか?
結論をいうと、大いにあります。というより、既に恩恵を受けています。一番身近なのはGoogle mapでしょうか。
こういった位置情報サービスは、衛星の電波を利用して、観測情報を集めたものが基礎データになっています。
私はめちゃくちゃ方向音痴なので、凄く助けられています。どのくらい方向音痴かというと、2回道を曲がったら元居た場所に戻ってこれなくなってしまうレベルです。
Google mapがなかったとしたら、私は旅行なんてできません。
毎日利用する天気予報も、観測衛星が天候を記録しているものです。まだ先の話ですが、今後は宇宙空間そのものを利用し、「宇宙太陽光発電」なども計画されているそうです。
実現できれば、地球上に設置する場合とは比較にならない効率で充電できるというもの。話を聞いただけでワクワクしてしまいますね。
今、地球に住んでいる全ての人は、何かしら宇宙開発の技術に支えられているのです。
ゼロから理想を追い続ける
2004年1月
堀江さんがIST社を創設する前、「自分たちでロケットをつくろう」と決めたときには、本当に何もない状態のところからのスタートでした。
中心となったメンバーは40代の素人で、SF作家や漫画家といった職業の方々でした。宇宙開発の経験のある技術者は、数える程度しかいなかったのです。元々は株式会社でもなく、「なつのロケット団」というチームでした。
最初は、ロケットエンジンを作ることから始まります。工場に行って、エンジンの部品をつくってもらう交渉をするところから。ほとんど断られたそうですが、粘り強くやったことで、いくつかの会社に協力してもらいました。
そこからはひたすらにトライ&エラーで挑戦です。
ロケットエンジンの実験場もないので、最初は風呂場で実験を行っていました。エンジンを組み立てる工具も自作です。そこまでやることで、だんだんと協力者も増えていきます。
そして2019年、挑戦から15年以上の歳月を経て、高度100kmを越えるロケットの打ち上げに成功するのです。
今、簡単に15年と書きましたが、ここまで一つのことに向き合えて、挑戦し続けられるだけでも凄いことです。それまでは“ずっと成功できていない”ということですから。相当な「熱意」がなければ続けられないことです。
本書でも述べられていますが、やりたいことがあるなら、年齢や経験は関係ないということですね。
ISTの展望
高度100kmを越えるロケットって、具体的に何が凄いのか?何の役に立つのか?という疑問はあると思います。
詳しい内容は本書を読んでほしいのですが、簡単に解説します。
宇宙の領域については曖昧なところも多いのですが、国際的には「高度100kmより上は宇宙」としているそうです。この領域をカーマンラインといいます。
ISTは、この領域まで打ち上げることのできるロケットを開発できました。
宇宙空間まで行って、落ちてくるだけのロケットでも、「数分間の無重力空間」を実現できます。これを利用した、様々な科学的実験の需要があります。これは観測用ロケットと呼ばれるものです。
堀江さんは、ISTの目的は「宇宙開発産業という市場を拡大し、宇宙を身近なものにすること」と述べています。これを実現させるためには、ロケットを安くつくれるようにすることが必要です。
今まで宇宙開発の市場が延びなかったのは、とにかくロケットの打ち上げにお金が掛かりすぎていたからです。低価格でロケットをつくることができないなら、新規のプレイヤーが市場に参入できず、どうやっても市場が拡大しません。
ISTがつくるロケットは、「早く」「安く」「確実」を重視したものになっています。牛丼屋のキャッチコピーみたいになっていますが、その目的を達成させるために、あらゆる工夫を行っています。
例えば、ロケットに搭載するカメラの制御に使うCPUのOSには、「Raspberry Pi」という教育用の製品を使用しています。これは実際、私も学生時代の授業で使ったことがあり、それぐらい身近な工業製品です。
これだけで、既存のロケットでは数百万していたものが、数千円のコストダウンになります。
こうやって市場が拡大することによって、ロケットの新しい使い道も開拓されていきます。堀江さんは更に、「プリウスを生産するようにロケットを生産しなければいけない」とまで述べています。
自動車産業の変革と、宇宙開発への進出
知っている人も多いでしょうが、自動車産業は今、「100年に一度の大変革期」と言われています。極端にいえば、産業構造自体が変化するということです。
10年後には、自動車の利用方法が今とは全く別なものに変わっているかもしれません。その背景には、「自動運転」、「電気自動車」というものが関わってきます。
株式市場において、電気自動車の最先端である「テスラ」は現在、世界第2位の自動車メーカーにまで成長しています。しかも、「テスラ」は創業16年の会社です。創業16年にして、日本が世界に誇るTOYOTAに迫ろうとしています。化け物です。
(※2020年7月にTOYOTAを超えて、時価総額1位の自動車メーカーになりました。)
電気自動車が生産される理由
何故、電気自動車の市場が拡大しているのかというと、主に以下の理由です。
- 簡単につくれる。
- エネルギー効率が抜群によい。
- 自動運転車との親和性が高い。
電動モーターの内部構造は、エンジンに比べると単純で、部品数も少ないのです。だから、自動運転車のギアチェンジ機構も、エンジンに比べれば容易につくれます。
その上、エネルギー効率もいいとなれば、あえてエンジンの車をつくる理由もなくなります。
この辺りの話は、学生時代に電磁気学や熱力学を学んだ方なら、よく分かるでしょう。エンジンの仕組みは流体学なども関わっており、とても複雑なのです。
バイクをいじるのが好きな人は、実際にエンジンを見たことがあると思います。めちゃくちゃ部品数が多いですよね。
そして、熱というエネルギーは、取り出せる上限が化学式によって決まっており、今の技術でも40%しかエネルギーとして利用できていません。
じゃあ何故、今まで電気自動車をつくっていなかったんだ、という話になりますが、昔の電気自動車の電池は大きく、重く、パワーが足りなかったのです。
それを解決してくれたのが、スマホにも使われている“リチウムイオン電池”です。一言でいうと、「エネルギー密度が半端ない電池」です。
これが正に偉大な発明で、電気自動車の唯一のネックがなくなりました。
今後は電気自動車が普及し、自動運転が主流となっていくでしょう。
完全な自動運転を実用化するには「ステージ5」という段階までいかないといけないらしいのですが、「テスラ」は既にステージ3〜4のレベルにまで、技術としては到達しています。
自動運転が当たり前となった世界
世の中の自動車が全て自動運転になったとすると、どうなるでしょうか。
言われているのは、「一人ひとりが車を所有する時代ではなくなる」ということ。今のタクシーのような感覚に近い形で、自動車は人間の生活を支えていくことになります。自動だから、料金もタクシーほど高くはならないでしょうね。
私個人としては、こういう時代は大いに賛成です。車好きの方からは批判を受けそうですが、車を一台所有するって結構な負担ですよね。月々の駐車代、保険代、etc.
また、私は車の運転自体が苦手です。事故を起こす、あるいは事故に合うリスクを考えると、運転自体が結構ストレスになっています。
車を持ってはいますが、都市部への移動には電車を使っているくらいです。だから、自動運転時代の到来はバンザイ!という感じです。
しかし、懸念事項もあります。「雇用の喪失」です。電気自動車の台頭によって、日本の自動車産業は崩壊しかねません。
既存のエンジン技術が不要のものとなってしまえば、日本の基幹産業である自動車開発会社で働く技術者、サプライヤーの需要もなくなってしまいます。
生き残るには
堀江さんは、今の日本の自動車産業が生き残るには、「保有している技術を使って新たな市場に参入すること」と述べています。そこで提案しているのが、ロケット等の、宇宙開発産業への参入です。
地上から打ち上げるロケットエンジンを、電動化にするというのは不可能。何故なら、いくら何でも“推力”が足りないからです。
原子力をエネルギーとして使えば、打ち上げること自体は可能かもしれませんが、失敗した時に放射線を撒き散らすことになり、人類が滅びます。迷惑どころの騒ぎではありません。
・・・となると、ロケットエンジンにおいて、「燃料」に変わる未来的な技術は、よっぽど存在しないといえます。
自動車の燃料ノウハウを、そのままロケットに転用できるのかというと、そんな簡単にはいかないでしょう。しかし、燃焼という現象において、日本の技術者一人ひとりに蓄積されている技能は、十分利用できます。
生き残り策としては現実的で、何より将来への希望が感じられます。
ここまで読むと、堀江さんの「何故、宇宙進出をしなければいけないのか」という主張もよく分かります。未来予知なんて不可能ですが、“未来を見据えて動く”という意識は持っておくべきでしょう。
紹介した本
『ゼロからはじめる力 空想を現実化する僕らの方法』 著:堀江貴文
オススメ度:★★★★☆
※堀江さんの本としては、個人の極論が述べられている訳ではなく、スタートアップの物語としてとても面白い。