【書評】生きることは、闘うこと。
アンティークドールの戦い
『Rozen Maiden』/『ローゼンメイデン』は2002〜2014年もの間、
掲載誌とタイトルが変更されて連載された、PEACH-HIT先生による日本の漫画です。
ドラマCD、アニメ化などのメディアミックス展開も数多くなされ、
美麗な作風、繊細なドールの衣装、「人造人間譚」とも呼べるテーマを主軸とした物語は女性からの人気も高く、
連載開始から20周年を迎えて尚、根強い人気を博している作品です。
生きているかのように動く、精巧なアンティークドール。
人形師:ローゼンが「究極の少女」を目指して作り上げた、不思議な力を持つ7体の人形は“薔薇乙女”と呼ばれていました。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
マスターと呼ばれる人間と契約したローゼンメイデンたちは、至高の少女を目指し、
互いの心臓でもある「ローザミスティカ」を奪い合う闘い・・・アリスゲームを繰り広げます。
アリスゲームに生き残り、究極の少女となった唯一体のドールだけが、お父様と出会うことができます。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(1)/©PEACH-HIT』
ローゼンメイデンの第5ドール:真紅と、不登校の引きこもり少年:桜田ジュンが出会い、
彼女と契約するところから、この物語は始まります。
長くて果てのない旅の始まりー・・・。
日本の推理小説家:綾辻行人先生は、本作が『Another』を書くきっかけの一つになった、という旨の発言をされています。
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とても有名な作品なので、何となく存在は知っていたものの、連載当時、放映されていたアニメ等は見ていませんでした。
20周年で愛蔵版が刊行されたのをきっかけに、本作を購入して、やっと物語の内容を知ることが出来ました。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(1)/©PEACH-HIT』
参考:「ローゼンメイデン」20周年で愛蔵版が全7巻で登場!カバーは描き下ろし|コミックナタリー
実際に読んでみた上で、本作の魅力などを解説していこうと思います。
では、さっそくはじめていきましょう!
感想
全巻購入して、完走した感想ですが・・・個人的には読んで良かったです。
愛蔵版全7巻を集めて、約1万円くらいの出費になりましたが、後悔はありません。
ストーリーは正直よく分からない部分が多かったので、雰囲気だけで楽しんでいたところもありましたが・・・
それでも、最後まで読むだけの価値はあったと、個人的には思います。
本作の魅力を一言でいうと、「キャラデザ全振りマンガ」です。
正直、マンガというより“画集”として集めていた感もあります。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(3)/©PEACH-HIT』
作中で全7体のドールが登場するのですが、このドール全員のデザインが神がかっています。
ハズレデザインが全くなかったです。
アニメが放送されていた人気絶頂期には、ドールそれぞれに熱心なファンがいて、
「信者」とまで呼ばれていたのも頷けます。
特に人気が高かったのは、水銀燈・翠星石・蒼星石だったらしいのですが、
これはもう、好みに分かれるところだと思います。
美麗な絵、ドールのキャラクターたちを楽しむことが出来るのであれば、
ストーリーをあまり理解していなくても、買って損することはない作品です。
特徴
『ローゼンメイデン』のストーリーはいわゆる“バトルロワイヤル”ですが、
主人公:真紅を含めて、ローゼンメイデンたちはアリスゲームを受け入れており、
姉妹との戦いに苦しみ、嘆くような展開はあまりありません。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
「翠星石」というキャラクターだけは、双子の姉妹である「蒼星石」との戦いを拒絶し、
その結末に慟哭する場面もあったのですが・・・
それでも、最終的には自分の運命を前向きに捉えています。
このアリスゲームを通して、真紅の契約者であるジュンも、過去のしがらみ・確執を徐々に解消していく、
そういった「成長物語」でもあります。
暗い描写
本作がシリアスで、鬱要素があると呼ばれるのは、主に主人公周りの過去のトラウマに起因されます。
「主人公が引きこもり」という設定が第1話からあるのですが、そうなってしまった理由が、嫌に現実的なんですよね。
こういったこともあるだろうな、と実際に思ったくらいです。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
第2部に進むと、物語は並行世界(まかなかった世界)に舞台を移し、
引きこもりを卒業して大学生になった、未来の主人公が登場します。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(3)/©PEACH-HIT』
一人暮らしやアルバイトを始めて、学生生活をできてはいますが、彼自身は救われていない。
大学やアルバイト先といった社会に馴染めず、「自分の居場所」を見つけられない、孤独な日常。
そして物語が第3部に進むと、主人公が抱えている心の闇を、
さらに抉るような台詞をぶつけてくるので、ちょっと鬱になりそうでした。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(6)/©PEACH-HIT』
美少女に踏みつけられながら罵倒されるという、男の性癖を刺激するシチュエーションですが、
全然うらやましいと思えませんでした。「もうやめてくれよ・・・」という気持ちになりました。
難解な概念
感想として、「ストーリーがよく分からない」と書きましたが、作中に登場する「nのフィールド」をはじめとする、
難解な用語・世界観が頻繁に登場するため、話についていけなくなりがちです。
『ローゼンメイデン』を構成する要素である
「ローザミスティカ」
「人工精霊」
「夢の世界」
こういった用語の説明も後々されていきますが、作中では当たり前の概念として物語が進行することが多く、
初読時は結構苦労しました。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(1)/©PEACH-HIT』
特に、第2部からは「まかなかった世界」という並行世界に転移するので、
読者を置いてけぼりにしがちな部分が多々あります。
ただ、「あまりよく分かんねーな」という理解度でも問題なく話を読むことは出来るので、
そんなに深刻にとらえる必要はないと思います。エヴァと一緒です。
あらすじ
マンガは全3部構成になっております。
具体的な内容の紹介はしませんが、ここではストーリーの概要だけ説明します。
第1部:まいた世界編
苦しくて辛い闘いに 自分一人で向き合っているんだと思ってた
見守っている小さな瞳に気付かず
僕を呼ぶ小さな声にも気付かないフリをして・・・
『月刊コミックバーズ』(幻冬舎コミックス)で2002〜2007年まで連載された内容。
タイトルは『Rozen Maiden』と、英語表記になっています。
現代で目覚めた7人のローゼンメイデンによる、アリスゲームの開幕。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
ジュンの前に次々と登場するローゼンメイデン。
真紅の最大の好敵手である、第1ドール:水銀燈との闘いが一旦終結したのも束の間、
最後の第7ドール:雪華綺晶がアリスゲームを制する為、謀略を進めていた。
雪華綺晶の罠によって捕われた、ローゼンメイデンとマスターたち。
ジュンを守る為、真紅はマスターとの契約を自ら解除する。
第2部:まかなかった世界編
そう世界はいつだって 目に見えない選択肢で満ちている
気づこうとさえすれば 誰の手にも無限に
世界は選び取れるのだわ
ここから第3部までは、2008〜2014年の間、『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で連載された内容になります。
タイトルは『ローゼンメイデン』に変更。
ローゼンメイデンの存在しない世界で、主人公は別世界の自分にアクセスし、
雪華綺晶に捕われたローゼンメイデンを解放しようと動く。
大学生となったジュンの元に、組み立て式の人形が届く。
組み立てたボディで、レプリカの体を手に入れた真紅は目覚める。
雪華綺晶に奪われたマスターを探して、水銀燈もジュンと真紅のもとへ合流。
そして、雪華綺晶の出現によって、さらに激化していくアリスゲーム。
その結果、別世界の主人公はある選択を突きつけられることとなるー。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(4)/©PEACH-HIT』
マスター どの薔薇乙女の手を取りますか?
第3部:2つの世界編
これが君のー
これが私の アリスゲーム
「まかなかった世界」のジュンの選択により、再び「まいた世界」に戻ったローゼンメイデンたち。
「まいた世界」のジュンもついに復学を果たし、新たな未来へ進もうとしていた。
しかし、徐々に日常を侵食し始める不協和音。
いつしか、世界は雪華綺晶の創り上げた世界に書き換えられていた。
再びマスターと離れ離れになったドールズたちは、一体、一体と力を失っていく。
姉妹のローザミスティカを託され、生き残ったのは真紅と水銀燈。
そして、究極の薔薇乙女となった雪華綺晶による最期のアリスゲームが開幕する。
引用:『ローゼンメイデン 愛蔵版(7)/PEACH-HIT』
アリスとなった少女が、最後に望んだものはー・・・。
ローゼンメイデン
ここでは、物語に登場する7人の薔薇乙女を紹介します。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(3)/©PEACH-HIT』
真紅
闘うことって 生きるってことでしょう?
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
ローゼンメイデンの第5ドールにして、本作の主人公ドール。
紅茶と読書を嗜む、気品さと優雅さを兼ね備えており、
5番目の姉妹とは思えないほどに落ち着いている。
しかし、猫やホラー番組に怖がるなど、本人曰く苦手なものは多いらしい。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(1)/©PEACH-HIT』
薔薇の花弁を操る「薔薇の尾」と呼ばれる攻撃の他、
壊れた物の時間を巻き戻すという能力を作中では披露した。
姉妹たちを犠牲にするアリスゲームのやり方には疑問視しており、
彼女は彼女なりの方法で闘いを終結しようとしている。
水銀燈
私達は 絶望するために生まれてきたの
それが 薔薇乙女の宿命だものー・・・
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
ローゼンメイデンの第1ドール(長女)。
逆十字が刻まれた漆黒のドレスを身に纏う、始まりのドール。
アリスに対する執着心は非常に強く、他の姉妹のローザミスティカを奪い、手に掛けることを全く厭わない。
真紅とは相反する価値観であり、犬猿の仲。
アリスゲームを進めていくうちに、その本質が自分の認識とはズレていることに気づく。
そして、雪華綺晶の登場以降はダークヒーロー的なポジションになり、
自身のマスターである少女:柿崎めぐを救う為の闘いに身を投じる。
作中トップクラスの人気を誇るドールで、私から見てもキャラクターセンスが頭抜けていると思いました。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(1)/©PEACH-HIT』
作中では黒い羽による攻撃の他、見つめた相手を拘束する金縛りのような能力を披露した。
雛苺
ずーっとみんなで仲良く楽しく過ごしていたいの
でもダメなのね アリスゲームは終わらないのね
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(3)/©PEACH-HIT』
ローゼンメイデンの第6ドール。
ローゼンメイデンシリーズの中で最も姿形や言動が幼く、登場初期はそれ故の狂気も持ち合わせている。
真紅に敗北して以降は、真紅の僕となり、ジュンの家に住むことになる。
甘えたがりの性格だが、自分の運命を受け入れる強さを持っている。
水銀燈との闘いでは「おっかない」と思っていながらも、ジュンを守ろうと奮闘する姿を見せた。
元々のマスターとの契約を破棄している為、パワーダウンしてしまったが、相手を拘束できる苺轍を操る能力を持つ。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(1)/©PEACH-HIT』
雪華綺晶の最初の犠牲となった為、第2部以降の物語の表舞台からはフェードアウト。
だが、その存在感は最後まで大きかった。
翠星石
言葉にできる寂しさは誰かが慰めてくれます
言葉にしない悲しみは自分で乗り越えていくしかないのです
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(1)/©PEACH-HIT』
ローゼンメイデンの第3ドール。
第4ドールの蒼星石とは双子のドールで、左右対称のオッドアイが特徴。
蒼星石に対する愛情は深く、彼女と闘うのであればアリスゲームをやりたくないと思っている。
しかし、マスターに対する忠誠心の違いから、敵対していくこととなる。
如雨露を使って植物を伸ばし、攻撃や防御に利用することが出来る能力を持つ。
性格は人見知りで性悪だが、ツンデレだったりもする。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
口調は「〜ですぅ」で、要するにタ●オ。
だが、見た目がめっちゃ可愛いしツンデレ属性もある翠星石は、ローゼンメイデンの中でも人気が高い。
タ●オとは大違いですぅ。
蒼星石
僕は君を断ち切る
僕が僕自身になるために
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
ローゼンメイデンの第4ドール。
双子の姉である翠星石と同様のオッドアイと、シルクハットが特徴。
生真面目で冷静な性格で、双子の姉とは性格が大分違うが、姉妹仲は非常に良好。
一人称は「僕」であり、容姿や口調は中性的。翠星石と同様、非常に読者人気の高いドール。
第1部の中盤で、水銀燈にローザミスティカを奪われてしまうが、第2部の途中で復活を果たす。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(4)/©PEACH-HIT』
そして、雪華綺晶との最終決戦まで真紅たちと同行し、アリスゲームに協力した。
金糸雀
でも 生きているわ 闘っているから
それが ローゼンメイデンの誇り
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
ローゼンメイデンの第2ドールであり、次女。
一人称は「カナ」で、語尾に「〜かしら」をつけるのが特徴。
戦闘はヴァイオリンによる音波攻撃を使い、その威力は非常に強力。
ドジっ子気質で幼い外見の彼女は、とても次女には見えないが、精神年齢はローゼンメイデンの中でも高い。
他の姉妹たちとは基本的に友好な関係ではあるが、本来はアリスゲームに参加している“敵同士”である為、
真紅たちの協力体制に疑問を投げかける等、現実主義者な一面を見せた。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(6)/©PEACH-HIT』
水銀燈すらも自分のペースに巻き込むなど、総じて物語における立ち回りが非常に上手いキャラクターでした。
後半になればなるほど魅力的になるタイプですね。
雪華綺晶
私は私を補って・・・
至高の少女になるのです・・・
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(2)/©PEACH-HIT』
ローゼンメイデンの第7ドールであり、末妹。
本作における最後のローゼンメイデンとして登場した、物語におけるラスボス的存在。
実体を持たないドールであり、
「エーテルから解放されたアストラル イデアのイリアステル」
と説明されている。
全然意味が分かりませんが、多分「テフをオフチョベットした」と同じ感じだと思います。
要するに、雰囲気だけ伝わればOKです。
(お父様はどうやってこんなのを造ったんだ・・・?)
水銀燈をして「本当の意味で壊れた子」、「哀れな化け物」と称される程に、その精神や目的は常軌を逸している。
出典:『ローゼンメイデン 愛蔵版(4)/©PEACH-HIT』
ローゼンメイデンの中でも桁違いに強大な力を持ち、たった一人でアリスゲームを支配した。
このドールの登場と共に、物語は急変する。
異常な行動や狂気に満ちた表情を浮かべることが多かったが、最後の最後で真紅によって救われた。
最終回に登場した彼女は、他の姉妹たちに抱いていた憧れ、嫉妬、孤独感から解放された、非常に可愛らしい姿を見せた。
最後に
『ローゼンメイデン』は物語の途中で掲載誌が移籍されたこともあり、様々な種類のコミックスが刊行されています。
アニメは原作漫画とはストーリーが違っていたりするので、余計にややこしいです。
参考リンクはこちら!
ローゼンメイデン漫画の種類と違いは?新装版と愛蔵版など原作コミックの相違点も
特に拘りがなければ、今年発売された「愛蔵版」を購入すれば良いと思います。
原作のストーリーが全て収録されていますし、全冊揃えた時の値段もほとんど変わりません。
この物語を通して思ったのは、「人生って痛いものだよね」ということ。
辛い現実に打ちのめされそうなときもあるけど、それでも乗り越えていくのが人生だよね、ということ。
こういったメッセージ性のある作品は、読んでいて勇気をもらえますね。
闘うことって 生きるってことでしょう?
この真紅の台詞は、原作者のPEACH-HIT先生も「思い出深い場面」として挙げています。
それでは、次回の記事でお会いしましょう。遂に、100回目の記事です!
紹介した作品
ローゼンメイデン (著)PEACH-HIT