【エッセイ】平凡な日常の中にこそ面白さのタネはひそんでいる。

出典:岩井勇気|著者プロフィール|新潮社

【書評】自分の人生を客観視してみると、意外と面白いのかも?


はじめに

30代、独身一人暮らし、相方の陰に隠れがちなお笑い芸人がどんなことを考えながら日々の生活を送っているのか。

やはり特別な事件は起こっていないかもしれないが、どうかこれを読んだ後、平々凡々な日常を送っていると思っている人でも、

少しでもそれを楽しめるようになってもらえたらと思う。

 

・・・という冒頭から始まる、お笑いコンビ:ハライチの岩井勇気さんの書かれた日常エッセイの傑作、

『僕の人生には事件が起きない』を今回の記事では紹介させていただきます。

 

ココがポイント

どんな日常でも楽しめる角度が必ずある。

 

 

岩井さん

岩井勇気さんは、言わずと知れた人気お笑いコンビ:ハライチのボケ・ネタ作り担当の漫才師です。

相方の澤部さんと比較すると、テレビでの出演は少ないかもしれません。

人気者の陰に隠れがちな、いわゆる「じゃない方芸人」です。

 

しかし近年では、他の芸能人にも歯に衣着せぬ物言いや、サブカルに熱心なオタク気質な部分等が注目されており、澤部さんとは違ったベクトルで評価されています。

業界では「アニメ界の神」、「腐り芸人」というキャラを確立しているとか、いないとか。

 

岩井さんの芸人としてのスタイルに、好き嫌いはもちろんあると思います。

でも、物事に対して「好きなものは好き、嫌いなものは嫌い」とハッキリ意見する姿勢は、私も見倣いたいと思っています。

それに、猫好き・アニメ好きな自分との共通点も多く、物事に対する価値観が似ていると感じるので、勝手に親近感を抱いています。

 

そんな岩井さんが「小説新潮」で連載されているエッセイ集、『僕の人生には事件が起きない』は累計10万部突破のベストセラーとなりました。

日常に潜む違和感に狂気の牙を剥く、大人気エッセイのポイントを、私なりにまとめてみました。

 

 

『僕の人生には事件が起きない』

本作は日常エッセイですので、書かれている内容は非常にどうでもいいことです。

 

エッセイの冒頭でも述べられていますが、岩井さんは芸人にも関わらず「下積み時代の極貧生活」といった“ありがちな経験”をほとんどしていません

デビューしてから基本、ずっと順調に活動していて、人に話したくなるような大事件は全く起きていません。

・・・にも関わらず、テレビから求められているのは「自分の人生を面白おかしく話すこと」です。

岩井さんは、それに対して大きな苦手意識を持っていました。

 

そう考えていると段々腹が立ってきて、書きたいことなんかねーよ!という気持ちになった。

なのでその反発もあり、どうでもいい日常を書くことにした。

 

概要

『僕の人生には事件が起きない』で取り上げられている話は、およそ芸能人とは思えないような、岩井さんの日常を切り取ったものです。

 

収録されているエピソードには、例えば、

「水筒にあんかけラーメンの汁を入れて持ち歩いて、妙な優越感に浸った話」

「『ムンクの叫び』を観に行って、アイドルファンの心理を理解した話」

などがあります。

 

「何でそんなことするんだよ!」と、人によっては突っ込まれること間違いなしでしょう。

 

どちらかというと思考が岩井さん寄りの私ですら、「それはねーよ」と笑いながら読んでいました。

日常というか、ほとんど“妄想”ですね。

繰り返し見に行っていると、できれば『叫び』側にも僕の顔を覚えてもらいたい、という気にさえなる。

 

ただ、エッセイとしてはめちゃくちゃ面白い内容です。

芸能界とはほとんど関係のない、日常を切り取った話がほとんどなので、岩井さんのことを知らなくても楽しめます

文章もテンポよく、読みやすいです。ラジオの内容がそのまま文章になったような。

 

TBSラジオで2016年から放送されている「ハライチのターン!」、私も毎週楽しみにしているラジオ番組の一つです。

リスナーの方々にとって、一度は聴いたことのある話も多いことでしょう。

岩井さんの傑作トークが文章でも手軽に楽しめることを考えると、ファンの方にはたまらない内容になっています。

ラジオと同様の、キレキレの語り口で紡がれる文章は、読んでいて非常に心地がいいものです。

 

些細な日々を楽しむ

誰しも思ったより地味な生活を送っているのだ。

逆に、生きていく上で事実をそのまま話すだけで面白いような事件が毎日起こっていたら相当疲れるだろう。

流石にそれは御免である。

だから、普通に生活している日常を面白がりたい。

 

このエッセイ集には約30ほどのエピソードが収録されていますが、一貫している主張は「どうでもいい日常を楽しむこと」です。

日々の仕事に忙殺されたり、将来のことを考えたりすると、どうしても肩肘の張った生活になってしまいがちです。

そんなときは、こういうエッセイを読むと肩の力が抜けて、多少は気持ちが楽になれるかもしれません。

 

私も、週末の仕事終わりに「ハライチのターン!」を聴くと、一週間を乗り切った気持ちになれます。

 

エッセイから学べること

このエッセイは思いっきり娯楽作品なので、エンタメとして消化できればいいと思っていました。

しかし、岩井さんの独自の視点で書かれた日常の描写から、いくつかの“気づき”も得られました。

 

  1. むかついた話も、分析すると面白い話になる。
  2. 客観的に見ないと、比較しないと人生は分からない。
  3. 日常を発信していると、自分なりの視点が持てるようになる。

 

順番に解説していきます。

 

 

①むかついた話も、分析すると面白い話になる。

「ハライチのターン!」を聴いたことのある方には、よく分かると思います。

岩井さんがラジオでする話って、世の中に対する怒り・憤りが多いんですよね。

エッセイの中のエピソードにも、「昔の同級生に会ってムカついた話」や「組立式の棚で家族関係が崩壊しかけた話」が収録されております。

 

「そこまで言わなくてもいいじゃないか!?」という気持ちと、「確かにちょっと分かる・・・」といった感情がない混ぜになって、そこが面白いと感じます。

取り上げる話題のバランス感覚が絶妙ですね。

 

エッセイ集が発売された後の対談の中でも、こんな話題が挙がっていました。

面白い話を書けって言われると難しいんですけど、むかつく話を延々分析していくと、結果面白くなってくるっていうのはありますね。

参照リンクはこちら!

日常に潜む違和感に芸人が狂気の牙をむく、ハライチ岩井の初エッセイ集!

 

「人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見ると喜劇である。」

という格言をチャップリンが遺していますが、まさにその事例なのかなと思います。

 

失敗談を「笑える話」に変える。

私もここ1年間、友人と週一でMTGをやっていて、毎回「今週あった面白い話」を披露する時間があるのですが、

その中で笑いがとれる傾向にあったのが「自分にあった失敗談」でした。

 

例を挙げると、

「バスの停留所に学生が団体で並んでいて、そいつらが誰一人として乗車せず、そのまま最後尾で待っていた私を置き去りにしてバスが発車した話」とか。

参照リンクはこちら!

ウィークリーミーティング #27

 

こういった、自分に全く非がない事で損害を受けると、その理不尽さに腹が立つものです。

でも、「笑い話が一つ出来たぞ」と発想を転換させると、自分にとってプラスに変えることが出来ます。

失敗談を面白おかしく話すことが出来れば、自分の中の鉄板トークになります

 

 

②客観的に観ないと、比較しないと人生は分からない。

岩井さんのエッセイが面白く感じるのは、視点が斬新なこともありますが、何気ない日常の描写を客観的に捉えられていることです。

このエッセイの最初の項に、小説新潮で連載することになったきっかけが書かれていました。

・・・こんな調子で。

 

最初の打ち合わせ、うちの会社の事務所に、僕に依頼してくれた編集担当の人が来た。

静かそうな女性だ。出た。

この手の文系女子は、コンビの陰に隠れがちな方で、ネタを書いていてラジオでは目立ちがちな、いかにも文章が書けそうな芸人にすぐ焦点を当てたがる。

(中略)

応援していると言ったら聞こえはいいが、皆が注目していないその芸人を応援することで、

友達には「え!?あんなのの何がいいの!?」と言われることこそを、人と感性が違う自分として、自分の中の唯一性を保っている感じだ。

でも違うんだっつーの!俺はお前らの思っている詩的な文系芸人じゃないんだよ!

すぐこんな感じの芸人を見つけては脳内で自分の好きなように作り変えるんじゃねぇ!

 

岩井節が炸裂していますね。この冒頭部分、私は声に出して笑いました。

自分がどういったキャラクターとして見られているか、分かっていなければこんな風に書けません。

 

ただ、連載の最初の方は「こんなんで本当にいいのかな〜?」なんて思いながら担当に提出していて、連載が続いていく内に、

「もう少し上手く書けるようになりたい」

「もっと上手く思っていることを言語化できたら」

という気持ちが強くなっていったようです。

 

他人に自分の人生を話してみる。

先月頃に会社の「キャリアセミナー」を受講して、これまでの職場での経験を他部署の方々に話す機会がありました。

そこで意外に感じたのが、

「苦労されているんですね、大変ですね。」

と、言われたことです。

 

私は「平均以上に良い仕事場で働かせてもらっているからな・・・」と思っていたので。

 

当然のことですが、私にとっての職場環境というものは、「自分が働いてきた環境」しか知りません。

私にとっては「当たり前」でも、全くの異業種の方々からすると「異常なこと」になることもあります。

 

自分の人生が他の人からずれているかどうかなんて、自分から見ても分かりません

岩井さんのようにエッセイを書いていると、編集やその他の方々からいろんな意見をもらえます。

そこまでは流石にできないですが、

「違う業界の人と話をしてみる」

「日記を書いてみて(アウトプットして)、客観視してみる」

 

ということを続けていくと、新しい“気づき”が生まれてくる可能性があります。

それが、思いもよらぬ人生の転機に繋がることも、きっとあるでしょう。

 

 

③日常を発信していると、自分なりの視点が持てるようになる。

これもエッセイの冒頭で書かれていたことになりますが、

常に日常生活の中で題材を探しているので、どんなことに対しても自分の視点を持てるようにはなった。

そして、普段からいろいろなことを考えながら生活するのも楽しいーと。

 

この意見、私はとても賛同できます。何故なら、私もこういうブログを書いているからですね。

ブログを書き始めたのが2020年頃で、それからずっと「発信できるネタを収集し、文章に落とし込む」という生活を繰り返しています。

(まあ、サボっていたこともありますが。)

 

日常で起きた出来事や、新しい経験、エンタメ作品を鑑賞している時間。

人生の全てで「これ、ブログのネタになるかな?」と考える癖がつきました

ふと気づいたことでも、メモ書きしておいたり。

そして、ブログに投稿する内容はそれなりに調査したり、初見の方に分かるような文章を考えたりする為、自分の中ではめちゃくちゃ心に残ります。

 

ブログを始めてから紹介した作品は、大体内容を思い出せます。

娯楽作品を見る時間でも「これは人に紹介しよう!」と考えれば、真剣に見るようになりました。

そういった生活は、充実していて楽しいんですよ

 

ボーッとしてダラダラ過ごす時間も好きですが、アウトプットすることを前提にした過ごし方も良いものです。

「ブログやろうぜ!」とまでは言いませんが、何か記録に残しておくという生活をやってみると、

「いつの間にか時間が過ぎていた。でも自分が何をやっていたか何も思い出せない」とは感じにくくなりますよ。

 

 

余談:ラジオについて・・・

当記事でも何度か紹介しましたが、「ハライチのターン!」はオススメです。

昔はほとんどラジオ番組って聴いていませんでしたが、去年から割と聴くようになりました。

 

単純に面白いですし、自分がやってこなかったジャンルの話や、面白いエンタメ作品の情報を知ることができて、いいものですね。

何か新しいことを始めるきっかけにもなります。

 

以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。また次回!

 

紹介した作品

1作目:

僕の人生には事件が起きない

2作目:

どうやら僕の日常生活は間違っている

ラジオ番組:

ハライチのターン!

  • この記事を書いた人

イナ

本業は設計者。29歳。書評とコラムを発信する、当サイトの管理人。気ままに記事を更新します。日課は読書と筋トレ。深夜ラジオとADVゲーム好き。

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