【要約】美術革命!『13歳からのアート思考』 アートって何なの?からの解放。

2020年8月15日

©ダイヤモンド社/末永幸歩

【書評】アートを学ぶことが現代社会を生き抜く術。


 

2020年に読んだ本の中で、現時点で最も面白かった本

久し振りに本の紹介をします。

私は今年に入ってから大体30冊くらいの本を読んでいますが、

その中でも間違いなく、一番面白かった本はこれですね。

 

読んだきっかけは、youtuberの「マコなり社長」が紹介されていたことです。

その動画のリンクを下に貼っておきます。

30分近くあるので、少し長めの動画ですが、是非最後まで見てみて下さい。

【新常識】大人が必ず学ぶべき科目 TOP3

 

本書、『13歳からのアート思考』を読んで、

私の「美術作品」に関する価値観は大きく変えられました

 

私は、自分の価値観が変わる本こそが良い本という持論を持っているので、

多くの方に読んでもらいたいと思います。

 

 

内容紹介

まず、本の内容をざっと紹介します。

著者は、実際に美術の教師をされている末永幸歩さんという方です。

 

私を含めて、「美術」が苦手な教科だったという学生は少なくないのではないでしょうか?

美的センスといった、学力とは全く別の能力が求められますし、

生きていく上で画力が必要かと言われると、そうではないですよね。

 

末永先生は、多くの日本人が「美術」という教科に苦手意識を持っているという事実に対して、

明確な分岐点があるという考えを述べています。

そう、本書のタイトルにある「13歳」です。

 

美術は苦手!

小学校の「図工」は好きだったけど、中学の「美術」は評価基準が良く分からず、

テストの前にはいきなり美術史を暗記させられて・・・という理由で嫌いになる人は多いようです。

私は「美術」が嫌いとまでは言いませんが、やっぱり苦手な科目ではありました。

 

同級生の自画像を描く時間が美術の授業中にあったのですが、私の描いた絵があまりにも下手だったので、

その絵を見た同級生に思いっきりお尻を蹴られたことがあります。酷い話ですね。

 

末永先生は、こういう「技術・知識」偏重型の授業スタイルこそが、

「美術」に対する苦手意識の元凶だとしています。

 

その上で、「美術」こそ大人が今、最優先で学び直す教科だと断言しています。

それは何故か?ということを実際のアート作品を鑑賞しながら、一つ一つ学んでいきましょう!

ーという本です。

 

 

目的

本書の目的、それは「アート思考」を身につけることです。

「美術」という授業で本来学ばなければいけないことは、

絵を上手に描くことでも、ましてや、画家の名前・作品名を暗記するといったことではありません。

 

抽象的に説明すると、「アーティストのように物事を考えようぜ!」ってことです。

 

ところで、皆さんは実際にアート作品を見たりしますか?

私は、子供の頃から「アート作品」というものの価値が全く分かりませんでした。

・・・といっても絵を見ること自体は好きで、好きなイラストレーターの方の画集を買うことはあります。

出典:Anamnesis 清原紘画集

非常に美麗で、繊細な絵ですよね。思わず見惚れてしまいます。

こちらの画集は定価で3000円でした。

 

で、世界的に有名なアート作品というのは、例えば下の画像のようなものがあります。

 

出典:Ellsworth Kelly, Green White / 1968

 

白地に緑の丸を塗っただけのこちらの絵。これ値段が1億6000万円します。

極めて控えめに言って、狂気の沙汰です。

 

ごく個人的な感想として、言葉を選ばずに感想を申し上げますと、クソですよね。

こんなのにお金を払う価値すら感じません(※個人の感想です)。

 

アートといっても《モナ・リザ》とか、《ヴィーナスの誕生》とか、

素直に凄いと思える作品はあるのですが、

一方でこんな落書きが世界的な美術作品として高い評価を受けています。

 

アートって意味が分からない、と思うのは私だけではないはずです。

 

さて、『13歳からのアート思考』で紹介されているのは、こういった意味不明な作品ばかりです。

一見して「上手えええ!」って感心するような作品は、一つもありませんでした。

中には、便器を外して横に倒して、サインを描いて「これが私の芸術だ」といった代物まで紹介されています。

もう何度でも言います。クソです。そんなもん捨てちまえばいい。

 

何故、そんな意味不明の物体が「アート」と言えるのか。

というか、そもそも「アート」って何なのか

 

それは、本書を読むことで理解できるはずです。

何せこんなにアートに対して偏屈だった私が、分かるようになったのですから。

積年の疑問が解消されて、頭がスッキリしますよ。

 

 

アートとは

私を含めて、多くの人は「アート」というものを誤解していました。

それは、作品そのものがアートの全てだという勘違いです。

 

実際には、作品というのは「結果」に過ぎず、アートの本質ではありません。

アートにとって本質的なのは、作品が生み出されるまでの過程なのです。

 

本書では、アーティストと、アート思考の定義を以下のようにしています。

アーティスト:「興味のタネ」を自分の中に見つけ、「探求の根」をじっくりと伸ばし、あるときに独自の「表現の花」を咲かせる人。

アート思考:「自分だけのものの見方」で、「自分なりの答え」を生み出し、それによって「新たな問い」を生み出すこと。

 

世の中の多くの方は、私もそうですが、アーティストではありません。

他人が定めたゴールに従い、「表現の花」だけを追い求める。

本書ではこういう人を「花職人」と表現しています。

 

「アーティスト」と「花職人」は、結果だけ見れば同じかもしれませんが、本質的には全く異なっています

粘り強く根を張って花を咲かせた人は、何度でも花を咲かせることができますが、

花職人はいつまでもアーティストの後追いになってしまうのです。

 

これって、アートの世界に限った話ではありませんよね?

ビジネスだろうと、学業だろうと、人生だろうと、

「自分なりの視点」を持てる人だけが結果を出して、幸せを手にしています。

 

アート思考とはまさに、「自分なりの視点」を手に入れるための考え方です。

そのアート思考を身につける、あるいは、取り戻すためにうってつけなのが、アート作品というわけです。

それは何でかって言うことを、次の章で解説します。

 

 

答えをつくる力(=正解主義からの脱却)が求められる時代

「今更、美術を学んだところで、世の中では大して役には立たない」

ーと、私は今まで思っていました。多くの方にとっても、そうであるはずです。

 

著者の末永先生は、この意見に対して、何で今「美術」が必要なのかを分かりやすく解説されています。

数学が「太陽」を扱うのであれば、美術が扱うのは「雲」です。

この意味、分かりますかね?

 

数学は「太陽」のように明確で唯一無二の回答が存在します。

「1+1=2」、「i^2=ー1」というように揺るぎません。

 

対して、美術から生み出される回答は、千差万別。

見る時代、環境、人によっていくらでも変化します。

そして、これまでに圧倒的に支持されていたのは、「正解を見つける能力」でした。

では、今はどうでしょうか?

 

テクノロジーが急速に発達した現代において、「答え」は探せばいくらでも見つかります。

インターネットの発達によって、世界中の人とのコミュニケーションが容易にできるようになったからです。

  • スマホが普及して、ほとんどの人がパソコンを持ち歩いている時代になりましたが、iPhoneの発売はたった10年前。
  • EV車でトップシェアを誇る「テスラ社」は、つい最近TOYOTAの時価総額を上回りました。「テスラ社」は創業してたったの16年という企業です。

 

こんな時代において、都度「新しい正解」を見つけていくというのは、あまりにも不毛だと感じませんか?

大企業に就職して一生安泰なんて時代は、もう幻想です。

「これをやっておけば間違いない。全てが上手くいく」なんてものは存在しません。ありえないんですよ。

 

そんな、正解主義思考から脱却するために、末永先生は「美術を学びましょう!」と提案しています

アーティストは、これまでの「常識」と戦ってきました。特に、20世紀を代表するピカソ等は顕著です。

 

本書で紹介される美術作品は、全てが20世紀に生まれた作品です。

それは、多くのアーティストが「アート思考」に自覚的に取り組んで作品を生み出したからです。

 

 

何故、現代アートは奇抜なものなのか

先程、私はこんなことを書きました。

《モナ・リザ》とか《ヴィーナスの誕生》とかは凄いと思うが、ピカソとかの作品は凄さが分からないと。

 

ここで私が“凄い”といっているのは、単純な画力の話です。

前者の作品を見たときは「美しい」、「綺麗」といった感想がスッと出てきます。

対して、ピカソの絵を見たときには「何これ?」という気持ちになります。

 

では、ピカソは絵が下手なのかというと、決してそんなことはないんです。

例えば、ピカソが15歳の頃に描いた絵を載せます。

出典:Science and Charity 1897

 

控えめにいって、上手すぎます。こういう作品を見ると、凄いって素直に思いますよね。

しかし、彼の代表作《泣く女》や《ゲルニカ》を見ていると

「何を表現しているのかよく分からん!」

「何故、こんな絵を描いたんだ?」

 

・・・という気持ちになります。

絵を普通に描くのに飽きたから、奇抜なものを表現するようになったのでしょうか?

 

この答えは、半分当たりですが本質的な回答ではありません。

 

花職人だったアーティストたち

まず知って頂きたいのは、

20世紀以前の美術作品というものには、「目指すべきゴール」のようなものがありました

以下のような要素が、アーティストのつくる作品に求められていたのです。

現実味を帯びた、臨場感のある宗教画

生き写しであるかのような正確な表現

 

その意味では、当時のアーティストは、“個人の描きたいものを追求する”というよりも、

“他人が定めたゴールに向かって手を動かす”という性質が強く、「花職人」に近かったのです。

それが良いか悪いかという話ではなく、世界がアーティストに求めていたことが、そうだったんです。

 

画家の価値が崩壊した事件

その秩序は、ある発明品によって崩壊することになります。

カメラ」の登場です。

カメラがあれば、現実味を帯びた生き写しの絵は簡単につくれてしまいます。熟練した技術も不要です。

 

実際にカメラが生み出されたときに、

「今日を限りに画家は死んだ」

という言葉が残されています。

 

カメラの発明によって、アートの世界にこれまであった、揺るぎない「太陽」のような明確な答えはなくなりました。

そして、それ以降のアーティストは「雲」をつくりだそうとするのです。

 

「アートの意義とは?」

「アートにしかできないことは何だ?」

「自分達はこれから先、いったい何をしていけばいいのか?」

 

そんな、今まで誰も考えてこなかった、答えのない問題に、真正面から向き合うことになったんです。

 

上に載せたピカソの絵を見て、皆さんは「上手い」と思ったはずです。

その上手さというのは、どこから来ているものでしょうか?

 

当然、その絵が現実そのものであるかのように、リアルだったからですよね。

ならば、「遠近法」といった絵の表現技術を駆使した、

「目に映るとおりに描いた絵」はアートとして優れた作品といえるのでしょうか?

 

常識を疑う姿勢

アーティスト達は自分なりに考えたのです。目に映る世界の模倣だけが、アートの全てではないと。

  • 「絵」そのものを表現するにはどうしたらいいだろうか。
  • 見たものの想像を巡らせるために、敢えて何も描かないというのはどうだろうか。
  • そもそも「遠近法」という技術は完璧なのか。

 

今まで、誰も疑わなかったことを疑い始めたことにより、個性的な作品が次々と生まれました

それは、これまでの「常識」を信じる人にとっては不毛なものかもしれません。

現代アート作品を見たときの「何だこれ?」という感想は、むしろ自然です。

 

ですが、これまでの模倣を徹底的に疑ったアート作品によって、

「リアル」の表現は様々であり、遠近法はそのうちの一つの回答でしかない。

ーということに気付かされたのです。

 

そう、アートの価値は鑑賞者によって変化し、自分なりの答えを生み出すことができることです。

 

 

アート作品の鑑賞法

美術作品は、実際に展示されているものを見ると、絵の説明や、作者の解釈等が記載されています。

この本も例外ではなく、アート思考の観点から、末永先生の作品に対する説明があります。

ですが、作中で何度も指摘がある通り、それが絶対的な正解ではないということには気をつけて下さい。

 

本の内容を「唯一の正解」として受け取ったり、それが自分の考えそのものとすることは、

アート思考ではありません。

作品によって「ものの見方」が変わったり、「自分の視点でモノを見ること」が、正しい鑑賞法です。

 

極端な話、「ピカソの絵はクソ」という辛辣な評価をしても全然いいんです。

その感覚に対して「何故そう思うのか?」を追究することができる。

それが美術作品にとって大きな価値だからです。

 

 

私の解釈

いかがだったでしょうか。美術やアートに関する視点が、少し変わったと思いませんか?

 

ここからは、私の解釈になりますが、「アート思考」を実生活に活かすために考えてみました。

私の考えるアートとは、「ストーリー」をつくることです。

自分なりの考えを持って、自分の思考にストーリーをつくる。

 

分かりにくいと思うので、実際の事例を紹介します。

【書籍 解説】ストーリーとしての競争戦略|いつも変人が勝ってしまう衝撃の理由

 

youtuberであるサラタメさんの動画を引用します。

『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』という本の紹介動画なのですが、

この中で「スターバックスが何故成功したのか」という事例を引き合いにして解説されています。

 

このスターバックスの戦略こそ、まさにアート思考を使った回答だと私は考えます。

超ざっくり要約すると、

  1. スタバが日本に参入したとき、チェーン店では絶対にやらない「直営店方式」で店舗を建てた。同じ産業では「失敗するに決まっている」とまで言われていた。
  2. 何故、そんなリスクをとったのかというと、スタバの理念は「お客さんに居心地の良い空間を提供すること」であり、その理念を守るためには、店舗のオーナーはスタバのスタッフでなければいけなかった。どうしてもそれは譲れなかった。
  3. 「直営店方式」にしたことで、スタバの商品は確かに他のカフェに比べると高い。だが、店舗の雰囲気、内装、空間に徹底的にこだわることのできたスタバは、唯一無二のブランド力を発揮し、他の競合を抑えて勝ち続けることができた。

 

これはまさに、これまでの「常識」を疑ったからこそできた戦略。

一見非合理だけど、突き詰めていくとスタバなりの「答え」があったからこそ成功したわけですよね。

 

今の時代に、私達が求められているのは、こういうことなんです。

アート思考がいかに重要か、私の解釈を読んで少しでも理解の助けになれたら幸いです。

 

注意点としては、私は本書をkindle paper whiteで読んだのですが、白黒だから作中の絵が見づらかったことですね(汗

 

紹介した本

『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』 著者:末永幸歩

オススメ度:★★★★★

※読んだ後、今すぐ美術館に行きたくなります。

 

 

  • この記事を書いた人

イナ

本業は設計者。29歳。書評とコラムを発信する、当サイトの管理人。気ままに記事を更新します。日課は読書と筋トレ。深夜ラジオとADVゲーム好き。

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