引用:『宇宙兄弟(17)』/©小山宙哉
【書評】宇宙には行ってみたいけど、交番まで免許更新に行くのは面倒臭い。
最近の宇宙兄弟の話
『宇宙兄弟』は2008年から連載開始し、現在単行本で42巻も発刊されている、超有名漫画です。
当ブログでも昔、何度か紹介したことがありました。
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【マンガ】人生のテーマを持っているか? 〜宇宙兄弟から学ぶこと〜
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宇宙飛行士を題材にした濃密な人間ドラマが描かれており、実写映画化、アニメ化もされたほどの大人気作品。
私もファンの一人で、コミックスを最新巻まで買い集めていますが・・・
正直、最近はそこまで情熱を持って追いかけることが出来なくなっています。
流石に42巻まで続くと、作品に対する“粗”とまではいきませんが、気になるところも多少あります。
今回の記事では、『宇宙兄弟』を読んできた私が少し違和感のあった部分を、5つ紹介します。
ココに注意
この記事で取り上げているものは「揚げ足」のようなものであり、
全体的なクオリティは非常に高い、名作であることには間違いありません。
では、早速はじめていきましょう!
記事の構成:
- ムッタ、有能すぎるだろ。
- ヒビト、自由すぎるだろ。
- ブライアン、出すぎだろ。
- お前、誰なんだよ。
- 終わり方、大丈夫なんだろうか。
1.ムッタ有能すぎる問題について
『宇宙兄弟』を読んだ99%以上の人が思う感想として、
「ムッタ(主人公)、あまりにも優秀すぎるだろ」
というものがあります。
このマンガの冒頭は、既に弟のヒビトが宇宙飛行士になっていて、兄のムッタは上司と揉め事を起こし失職。
偉大な弟に比べて、自分は・・・という、劣等感や卑屈な感情を抱いている主人公の描写から始まります。
引用:『宇宙兄弟(1)』/©小山宙哉
自己評価がとことん低く、変なトラブルにも巻き込まれやすい。
読者から見れば、非常に親しみの持てる性格をしています。
次の職探しに苦労している中、ヒビトから宇宙飛行士選抜試験に申し込むように言われてー・・・
そして、主人公が宇宙飛行士になり、厳しい訓練期間を経て、遂には月探査任務にアサインされます。
あまりにもトントン拍子に物事が運んでいるように見えますが、それだけの成果をムッタはしっかり残しています。
コネとか、運とかに依存しない、自分の実力で好機をものにしているのです。
引用:『宇宙兄弟(21)』/©小山宙哉
そんな活躍を見て、読者は次第にこう思いはじめます。
ムッタって、俺たちとは生きてるステージが違いすぎね? と。
そりゃ、宇宙飛行士に選ばれるくらいなのだから優秀なのは当然。
そして、よくよく考えれば物語の第1話で、市場を走る車の設計をしていることが描かれています。
「プリウス」や「レクサス」のデザインをつくった人と考えると、そもそも超絶エリートです。
引用:『宇宙兄弟(1)』/©小山宙哉
弟と比較して落ち込む必要なんて全くないくらい、この兄も凄まじい人材でした。
極めて逸材、極めて優秀な人物です。
『宇宙兄弟』は、落ちこぼれ主人公が努力で輝き出すサクセスストーリー
・・・ではありません。
最初からムッタはスーパービジネスマンであり、宇宙飛行士になるべくしてなった人です。
2.ヒビト自由すぎる問題について
兄より先に宇宙飛行士になり、日本人としては歴史上、初めて月に降り立ったヒビト。
任務を無事に完了させ、地球に帰還した彼ですが、本当の試練はここから待ち受けていました。
引用:『宇宙兄弟(14)』/©小山宙哉
月面任務にて、酸素不足で死の寸前まで追い詰められたヒビト。
地球に帰還後、パニック障害を発症し、宇宙服を着た瞬間に意識を失うようになります。
本人の懸命な努力と周囲のサポートで、何とかパニック障害を克服しますが、
NASAからは任命許可が下りなくなってしまいます。
そして、ヒビトは姿を消し、一緒に住んでいた兄のムッタにも一言も言わず、行方不明になってしまいます。
引用:『宇宙兄弟(19)』/©小山宙哉
結論からいうと、ヒビトは無事で、NASAを去ってロシアで宇宙飛行士を目指すことになります。
それは構わないですし、無事で良かったのですが・・・いくら何でも周囲に心配かけ過ぎだろ。
「アポ」という犬を飼っていたのに、その世話まで家族に一方的に任せて、自分は外国で暮らし始めます。
引用:『宇宙兄弟(31)』/©小山宙哉
ここから、ムッタとヒビトが月面で再会するというのが作品の大きな目的になっていきますが、
私がムッタだったら、ヒビトのことを一発ぶん殴っていると思います。
展開自体に文句はありませんし、ヒビトが一方的に悪いなんて思っていませんが、
ちょっと勝手が過ぎないか? と感じました。
まぁ、これくらいの度量がないとやっていけない世界なのかもしれませんが。
3.ブライアン出すぎだろ問題について
作中のストーリーでは既に故人になっていますが、「ブライアン・J」という宇宙飛行士がいました。
3巻の宇宙飛行士選抜試験が開始する場面で初登場。
機体のトラブルによって地球への着陸に失敗し、彼が墜落する瞬間の映像を試験者に見せられます。
引用:『宇宙兄弟(3)』/©小山宙哉
「最高の宇宙飛行士」と称されるほど、能力的にも人格的にも非常に優秀な人物で、
作中の多くのキャラクターたちに大きな影響を与えたナイスガイなおじさんです。
引用:『宇宙兄弟(9)』/©小山宙哉
・・・が、この人、いくら何でも登場しすぎです。作中キャラの回想シーン等で度々出てきます。
もう“準レギュラー”といっても良いくらいの登場回数を誇ります。
特に顕著だったのが、ヒロインの伊藤せりかさんと共にISS(国際宇宙ステーション)での任務を行った、
ロビンさんという宇宙飛行士の話。
この人、主要な会話シーンがほぼ2回しかないのですが、2回ともブライアンの話をします。
引用:『宇宙兄弟(23)』/©小山宙哉
引用:『宇宙兄弟(32)』/©小山宙哉
このエピソード自体はいい話ですし、決して強引とは言いませんが、
ブライアンのことを掘り下げる為だけに登場したキャラクターとしか思えなくて、
流石にやり過ぎなのでは・・・? という気持ちになりました。
4.お前誰なんだよ問題について
この『宇宙兄弟』という作品は、JAXAや、ロシアでの宇宙飛行士訓練をした方々など、
実際に航空宇宙の分野で働く人たちへの綿密な取材を基に、制作されています。
宇宙飛行士だけでなく、管制官、フライトディレクターといった、
主人公たちを支える側にいるキャラクターも、ネームド有りで数多く登場します。
作品の“リアル感”を演出する為ですが、同時に、こういう側面もあります。
キャラ多過ぎね? ・・・ということです。
例えば、33巻ではF・S(フライトサージャン:宇宙飛行士の専門医)として、
「久城」という癖の強い新キャラが登場します。
引用:『宇宙兄弟(33)』/©小山宙哉
この巻ではムッタと同じチームメンバーの一人が、月で大怪我をしてしまうという展開があり、
医療担当のメンバー:カルロに指示を出しながら月面基地とISSで手術するという話が収録されています。
その展開自体に無理はないし、無事に手術を完了させて、めでたしめでたし・・・なのですが、
久城がカルロを評価するこの場面には、引っ掛かりを覚えました。
引用:『宇宙兄弟(33)』/©小山宙哉
実は未経験だった手術を「経験済みだから出来る」と言い、実際に成功させたカルロに対して、
「嘘か本当かよう分からんことをー 最後には“本当”にしよるんです」
ーと、わけ知り顔でNASAの職員たちに伝えます。
カルロというキャラクターを端的に表した、深い言葉ではあるのですが、
それに関心するというよりは、「お前はカルロの何を知ってんだよ」という気持ちになってしまいました。
引用:『クレイモア(12)』/©八木教広
作中キャラとは顔見知りの仲だったのでしょうが、読者からすれば、この巻でやっと初登場した人ですからね。
同じセリフを言わせるなら、主人公のムッタとか、他のチームメンバーに言わせた方が、違和感は無かったと思います。
この他にも、“民間宇宙飛行士”の試験に合格した濃いキャラクターたちが6名くらいいるのですが、
23巻で登場して以降、未だ大きな活躍の場がありません。
単なる背景キャラで終わっても別に構わないのですが、それで終わるのは惜しいくらい「濃い」人たちだったので、残念です。
引用:『宇宙兄弟(22)』/©小山宙哉
5.終わり方、大丈夫なのか問題について
宇宙兄弟において主人公の大きな目的は2つあり、一つは、月面に望遠鏡を設置すること。
もう一つは、弟のヒビトと月で再会すること。
月面望遠鏡の設置は無事に完了し、コミックス40巻にて遂にムッタとヒビトは再会。
作品のタイトル回収となる場面も描かれ、長かった物語も、とうとうクライマックスを迎えます。
引用:『宇宙兄弟(40)』/©小山宙哉
次号、最終回! ーとなってもいいくらいの盛り上がりを見せましたが・・・
物語はまだ終わっていません。
ムッタが無事に地球に帰還するまでの準備や、やり残していた任務の様子が41、42巻で描かれました。
そして、その中にはサブヒロインの北村絵名さんの妹が、将来の夢だった「レストランのシェフ」になったエピソードもありました。
引用:『宇宙兄弟(10)』/©小山宙哉
ここを読んだとき、私は正直こう思いました。
「このエピソードって、どうしてもやらなきゃいけない話だったのかな・・・?」 と。
いや、別に話自体はいいんですよ。北村さんは普通に好きなキャラでしたし、「良かったね」とは思いましたよ。
ただ、タイトル回収回をやった後にわざわざ1話掛けてやることかね?
ケイちゃんのことが気になっていた読者は、極少数だったのではないでしょうか・・・。
本編とは全く関係ない、サブヒロインの妹の話なのですから、
最終回の後日談的なところで1コマで見せて良かった程度の話だったと思います。
42巻のラストではとうとう、ムッタが地球へと帰還し始めましたが、
ここまでの“寄り道”が多かったので、ラストを見届けるのも少々疲れを感じています。
統括
ーと、ここまでちょっと愚痴のようなことを書いてしまいましたが、
いよいよ、『宇宙兄弟』は終わりを迎えようとしています。
作者の小山先生が「ラストスパート」と発言し、スラムダンクの「山王戦」を目指したいと仰っていた結末。
私も非常に楽しみにしております。
参照リンクはこちら!
宇宙兄弟:作者が「ラストスパート」と発言 会場のファンざわつく|MANTANWEB
ちなみに、こちらの記事がWEBで公開されたのは6年前の2017年です。
本当にラストスパートが長かった・・・。
「山王戦」というかスラムダンク本編の連載期間と同じですね。
それでは、次回の記事でお会いしましょう!
紹介した作品
宇宙兄弟(40) ©小山宙哉