【要約】「好きなことで生きていく」を追い求めてはいけない理由。

2022年2月12日

 

【書評】自分のやりたいことではなく「相手が求めること」をやる


今回は、ソフトバンクでメディア統括部長を務めている井上大輔さんの書かれた書籍、

『マーケターのように生きろ』を解説させて頂きます。

自分のキャリアを見つめ直すきっかけにしてもらえると幸いです。

 

本の詳細な内容については書きませんが、私なりに特に大事だと思ったところを紹介します。

ココがポイント

相手をよく知り、求めることを理解し、「再現性を持って」応えること。

 

あなたは芸術家ではない。

結論からお伝えすると、私たちは「好きなことで生きていくことなんて出来ない。」という非常な現実です

 

・・・いやいや、ちょっと待ってくれよと。著名人の多くはこういっているじゃないか。

「自分のやりたいことをやれ!」

「一度きりの人生を、他人に従って生きるな!」

 

そんなメッセージを、世の中に発信している人がいることは私も知っていますし、それが間違っていると論ずるつもりは一切ありません。

 

ですが、「やりたいことをやって生きていきたい!」と考えている全ての人たちに、一つだけ問いかけたいことがあります。

その「やりたいこと」とは、具体的に何なのでしょうか?

 

相手に合わせる生き方

過去に私は芸術家:岡本太郎の書籍の紹介をしました。『自分の中に毒を持て』という本です。

【要約】人生は爆発だ!『自分の中に毒を持て』 真に“生きる”ということ。

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その本で主張していることは、

誰からも認めてもらえなくても、自分の信念に従い、真にやりたいことが出来るなら人生は満足だ

・・・ということです。

自己表現をすることで自分の人生を生き抜いた、正に芸術家的思想ですね。

 

これからは“個”の時代、社会に求められるのはそういう姿勢。

ーそんな謳い文句を、誰もが一度は聞いたことがあると思います。

 

さて、今回紹介する『マーケターのように生きろ』という書籍で主張していることは、『自分の中に毒を持て』とは真逆です。

一貫して、次のようなメッセージが書かれています。

  • 自分を表現するのではなく、人の期待に応えることを追求する。
  • 人から求められることが、幸せの本質。

 

これだけ聞くと、賛否両論に分かれると思います。

現実的な意見ではありますが、何か夢がない・・・そういう風に感じたのではないでしょうか?

 

社会を生き抜くために

超絶有名な自己啓発本:『嫌われる勇気』を読んだことがある人であれば、こう思ったかもしれません。

 

「幸せに生きる為には、承認欲求を捨て去ることが大事って聞いたんだけどな。」

 

確かに、究極的にはそうだと思います。

他人に依存せず、自分の信念に従いやりたいことを追求する。それこそが人生の本懐なのかもしれません。

 

しかし、世の中の多くの人は、そこまでして「やりたいこと」なんて持っていません

仮に持っていたとして、それで食っていけるかどうかは、また別の話です。

 

それでも構わない。たとえ死んでも本望。

ーと、心からそう思える人が芸術家であり、あるいはカリスマと呼ばれる存在です。

 

世の中に蔓延っている「個の時代」という言葉を聞いて、多くの方がイメージするのはこういう人たちではないでしょうか。

 

個の時代に対するイメージ

  • 世間の常識や慣習に縛られず、我が道を行った上で、突き抜けたような結果を出せる。
  • やりたいことをやった上で、多くの人に支持される強烈な個性、輝かしい才能を持ち合わせている。
  • 自分を表現する手段として、ビジネスをやっている。

 

けれど、そんな人はほんの一握りです。

大多数の人には「やりたいこと」なんて存在せず、ましてや“表現できる自分”なんてものはありません。

それが普通です。

 

求められること

では、そんな「普通」の存在である私たちは、虚しい思いを抱えたまま日々の仕事に打ち込むしかないのでしょうか?

そうではありません。救いの道はあります

 

それが本書で提示される「マーケターのような生き方」です。

様々な場所で多くの人から求められることこそ、あなたの個性を際立たせる方法になり得るのです。

 

引用:『進撃の巨人(20)』 ©諫山創

 

・・・結局のところ、社会が私たちに求めていることは「お前には何が出来るの?」という一点のみです。

自分のやりたいこととか、もっと成長したいとか、そんな思いは歯牙にも掛けてくれません。

 

 

著者の人生

この本の著者である井上さんは、今でこそイケイケのマーケターを仕事としてやっていますが、最初からそうだった訳ではありません。

元々はミュージシャンを目指し、大学生活を投げ捨ててまで、バンド活動に打ち込んでいたそうです。

 

当時は聴く人のことなど眼中にもなく、ただ自分を表現する為の音楽に熱中し続けた日々。

しかし、そんな傍若無人な振る舞いが許されるのは、極めて一握りの「選ばれた人間」だけです。

結局、バンド活動は全く日の目を浴びることなく、井上さんは音楽活動を辞めてしまいます。

 

好きなことをやっても、上手くいかなかった。

どんなに自分の好きなことをやっていようと、誰からも評価してもらえず、結果を出せないことを続けるのは辛いですよね。

心が病んでしまいます。

 

苦しみから抜け出す方法はたった一つ。他の人を喜ばせることだ。

「自分に何ができるのか」を考え、それを実行すればいい

ーアルフレッド・アドラー(心理学者)

 

そんな井上さんが、自己表現のような活動が出来るようになった始まりは、「相手からスタートすることを意識してから」と述べています。

この生き方が、本書で云うところの「マーケターの生き方」になります。

 

“天職”に対する考え方

20年後、知り合い同士で音楽イベントを開催したとき、井上さんは「どうしたら来てくれる人が喜んでくれるか」を第一に考えました。

その結果、自分は全く興味もなかった“パンク風アレンジした長渕剛”を演奏することになりましたが、ライブは大盛況。

参加してくれた人達から、未だに「あのときの長渕、良かったよ!」と声を掛けてもらえるほどの成功を収めました。

 

自己主張や自我を抑えることで、自己表現が出来るようになったのです。

やりたいことがなくても、輝くことは出来るのです。

 

井上さんは、本の中でこう説明しています。

マーケターのように生きて人の期待に応えることは、自分らしさを殺すことなのでしょうか。

そうではありません。

自分こそが応えられる「誰かの期待」を見つけ、自分なりのやり方でそれに応えていく

これを「自分らしさ」と呼ばずして何と言いましょう

 

天職などと云うのは、実は自分で決めるものではないかもしれません

・・・と、井上さんは本の中でそう述べています。

 

 

輝く人たち

世間で「成功者」として活躍している有名人。あるいは超有名な大企業、世間で大人気のお店などは、

全て「相手の立場に立ち、どうすればより多くのお客さんに喜んでもらえるか」を考え抜いて、実行しています。

 

本の中では、チャンネル登録者数が1000万人を超えた大人気YouTuber:HIKAKINさんが紹介されていました。

HIKAKINさんはボイスパーカッションの動画から注目を浴び、そこからゲーム実況やその他ジャンルに活動の幅を広げています。

彼がゲーム実況を本心からやりたかったのかどうかは分かりませんが、「より多くの人に楽しんでもらえるように」という思いがあったことは確かでしょう。

 

成功に秘訣というものがあるとするなら、

それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である

ーヘンリー・フォード(自動車王)

 

つい最近、私は「ずっと真夜中でいいのに。」のライブツアーに参加する機会がありました。

そこでも、今回のような話を思い出しました。

 

参照リンクはこちら!

果羅火羅武〜TOUR カラカラブ〜ツアー 

世間はコロナ禍なので、観客が声を出すことは当然出来なかった訳です。

それでも、グッズの「しゃもじ」を使って、曲に合わせて皆んなで手拍子したり、様々な演出で楽しませてくれたり。

今までの人生で参加したライブの中で、誇張抜きに一番アガりました。

 

売れている歌手というのは、こういう状況でも「お客さんがどうすれば喜ぶのかを考えているのだな」と思った次第です。

元々ファンではありましたが、もっともっと好きになりました。

 

相手の立場に立って考える。

ーそれが成功するために何よりも大事ということは、重々分かっていると思います。

 

しかし、それを徹底して続けていくことは非常に難しい。

相手に合わせるってめちゃくちゃ大変だし、本来はつまらないことですからね。

 

でも、世の中で人より違う結果を残している、輝いて見える人たちは例外なく、その苦しく、退屈なことに向き合い続けてきた人たちなんです。

そして、成果を出す為に必要な思想・ツールとして、「マーケティング」というものがあります。

 

 

マーケターの生き方

相手目線で考え、徹底的に相手が求めることを追求していくことが、「マーケターの生き方」であることは、ご理解いただけましたでしょうか?

芸術家の生き方を思想とするなら、マーケターとしての在り方も思想なのだと、この本には書かれています。

 

それが理解出来れば、この本の目的はほぼ達成出来ていると言えます。

そもそもこの本は、マーケティングのやり方を学ぶ為の書籍ではありません。

マーケティングの基本的な考え方・思想を理解する為の本です。

 

「いや、結局マーケティングって何なの?」

・・・と思われる方もいると思いますので、ここでマーケティングについて簡単に説明します。

 

マーケティング

SNSなどで「自称マーケター」を名乗る人物は非常に多い。

その所為か、「何となく怪しそうなイメージがある」と考えている方は多いのではないでしょうか。

私もその一人です。マーケターと聞くと、胡散臭い情報商材とか取り扱っているような匂いを感じていました。

 

まずは、マーケティングを正しく認識するところから始めていきましょう。

マーケティングとは、

顧客、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を、

創造し、伝達し、運搬し、交換する、

活動・一連の組織・プロセスである。

 

一言で説明すると、こうなります。

ポイントは、宣伝するだけがマーケティングではなく、価値を創り、精錬させるプロセスも含まれているということです。

だから、どんな職種にも少なからず通ずる部分はあるんですね。

 

特に重要だと思ったものは、「伝える」ということです。

どんなに良い商品だとしても、相手にその価値が分かってもらえないのなら、全く意味がない。

パナソニックの創業者である松下幸之助も、「消費者に価値を伝えることは商人の義務」という言葉を遺しています。

 

より詳しい内容は本に書いておりますので、気になる方は読んでみてください。

私のように「マーケターではない人」にとっても、その考え方を理解することは人生にプラスになるはずです。

 

仕事に限らず、人間関係・恋愛というプライベートな部分でも、マーケティングは活きます

相手目線で「どうすれば喜ぶのか」を考えるのがマーケターなのですから、当然ですよね。

 

それに、マーケティングの知識が身に付くことで、世の中の商品がどういう戦略で売り出そうとしているか、構造的に考えられる取っ掛かりになります。

それが分かれば、自分にとって必要なものか、あるいは、相手に煽られて購買意欲が高められているだけのものかも判断できます。

(これを見ている先着〇〇名限定!とか、今すぐポチるしかない!とかね・・・。)

 

マーケティングの知識が身につけば、自分の事業に利用することも、怪しい商売相手に対して防御することも出来ます

 

キャリアに活かす

マーケター的視点で考えれば、自分の仕事をもっと多くの方に喜んでもらえるキャリアを構築することが出来ます。

周囲の人からどんどん頼られるようになれば、少なくとも食いっぱぐれることは無いでしょう。

 

そんな、マーケター的キャリアプランをざっくりと紹介します。

キャリアの考え方:

  1. 市場を定義する。
  2. 価値を定義する。
  3. 価値を創り出す。
  4. 価値を伝える。

先ずは、自分を商品と見立てて「何が出来るのか」を棚卸します。

そこから、どの市場で勝負するのかを決めるのです。

ただ年収を上げたいなら、迷いなく成長している業界を選べばいいのでしょうが・・・コトはそう単純ではありません。

 

マーケター的な考えで戦略を立てるのであれば、最低限、以下の3つを意識するべきです。

ココに注意

  • 具体的な数字を見る。
  • 市場を細かく定義する。
  • 一つ一つの事実で比較する。

 

例えば、

IT産業は成長性が高い分野だと言われているが、ITのどんな技術が伸びてきているのか。

成長性が高いとはいっても、どれくらいの実利が出ているのか。

業界トップシェアを目指しているのか、そうでないのか。

 

抽象的な表現に逃げず、“詰めて”考える姿勢が求められますね。

 

「伝える」のポイント

先述した通り、マーケティングにおいて「伝える」は非常に大切です。要は自己アピールですね。

私も苦手ですが、避けては通れない道です。

 

『マーケターのように生きろ』では、次のようなプロセスで伝える方法が参考として載っていました。

①覚えてもらう。

②好きになってもらう。

③選んでもらう。

 

この項を読んだとき、私は『週刊少年ジャンプ』の大人気作家である、松井優征さんの言っていた話を思い出しました。

松井先生は、『魔人探偵 脳噛ネウロ』や『暗殺教室』で有名な漫画家です。

そんな松井先生が、2015年にNHK Eテレの「SWITCHインタビュー達人たち」という対談番組に出演されたことがあって、

その内容を未だに覚えています。

 

参照リンクはこちら!

2000万部超えの大ヒットマンガ「暗殺教室」を生んだ「弱者の仕事論」

 

マーケター的な戦略=弱者戦略

松井先生は超大ヒット作を生み出し続けている漫画家ですが、自分に漫画の才能があるとは全く思っておらず、

どうすれば読者に読んでもらえるのか」だけを考えて、計算して作品をつくっているそうです。

漫画家として「こういう作品を描きたい!」というような思いも全く無いらしく、正にマーケター的な考えですよね。

 

そんな松井先生が立てている漫画の方針として、「弱者戦略」という言葉を番組内で使っておられました。

ビジネス風にあえて言い換えるなら、「ランチェスター戦略」になりますかね。

 

自分の描いたマンガが読者に読み飛ばされることは前提で、その上で、どうすれば読んでもらえるか

その戦略の一環として、ページを捲ったら「何だこれ!?」と思わせるような場面を意図的に入れている。

そうすれば、そこでページを捲る手が止まり、その前後を読んでもらえる可能性が生まれてくる。

 

・・・そんなことを話しておられました。

そのことがよく分かる一例として、下の画像をご覧ください。

 

引用:『魔人探偵 脳噛ネウロ』 ©松井優征

 

いかがでしょうか。もう、このページだけで読みたくなってきませんか?

松井先生のデビュー作であるネウロは、ハマる人は滅茶苦茶ハマる漫画だと思うので、興味があれば是非読んで見てください。

 

そして、この松井先生の戦略が、正に先ほどの

①覚えてもらう。

②好きになってもらう。

③選んでもらう。

このプロセスに適合するケースだと思いませんか?

 

最初の“覚えてもらう”がハードル高いと思いますが、人がやったことの無さそうな、新しいチャレンジをしてみるといいかもしれませんね。

 

 

統括

『マーケターのように生きろ』を読んで、私が印象に残ったのは

「自己表現」という呪縛から解放されましょう。

相手が求めることをやるということも、立派な信念だ。

 

・・・という文脈です。私も含めて、同じような苦しみを抱えている方は多いと思います。

 

世の中には、成長思想を必要以上に煽り、ベンチャー企業で経験を積んだり、起業したりすることが正義だという価値観があります。

SNSで○万人のフォロワーとか、渋谷のITベンチャーで部長の経験とか、外資系のコンサル企業に転職成功とか。

・・・それらを自分のステータスとして、何の接点もない相手に振りかざす。

 

もちろん凄いことではありますが、それが美徳だとする考え方に、私はどこか共感できないところがありました。

そんなに、「自己成長」とか「自己表現」を全員が全員、追い求めなきゃいけないかな?と。

 

ですが、この書籍を読んだことで、考えが少し変わった気がします。

そういったセルフブランディングも含めて、マーケティングの一環として考えてみれば、

ただの戦略の一つでしかないのだな、と冷静に受け止められるようになったり。

 

私がやっているこのブログも、自分の書きたいものを追い求めるのではなく、「読み手が読みたいもの」を考えて書かないといけないな、と内省しました。

 

以上になります。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

紹介した作品

マーケターのように生きろ―「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動 著:井上大輔

 

 

 

  • この記事を書いた人

イナ

本業は設計者。29歳。書評とコラムを発信する、当サイトの管理人。気ままに記事を更新します。日課は読書と筋トレ。深夜ラジオとADVゲーム好き。

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