【書評】卓球っつうのはな、めたくそ楽しいんだぜ!
世の中で、最もアツい漫画と言えば何だろう?
ー世界で知らない人はいない摩訶不思議アドベンチャー『ドラゴンボール』
ー天才バスケットマンの成長譚『SLAM DUNK』
ー人間と魔物の友情と絆を描いた『金色のガッシュ!』
ー弱虫主人公が憧れの背中を追い続ける『僕のヒーローアカデミア』
漫画という文化の中では、王道で、真っ直ぐで、胸をアツくさせる物語が沢山ある。読み直す度に気分が高揚し、何より面白い。
ただ、歳を重ねていって色んな作品を見ていくと、自分が少年だった頃に比べて、そんな物語に夢中になる気持ちが薄くなっているのを感じる。
嫌いになったわけじゃない。王道の物語は大好きだ。
それでも、何となく先の展開が分かってしまうものは、好奇心が動かないし、あまりドキドキしない。
こういったことを、「大人になる」と言うのだろうか。悲しいことに。
そんな寂しさを感じつつある人に、是非オススメしたい漫画がある。
・・・というより、個人的にめっちゃ語りたい。なので、語らせてください。
卓球漫画:ピンポン
今回紹介するのは、卓球漫画の代表作、『ピンポン』になります。作者は松本大洋先生。
1996〜97年まで『週刊ビッグコミックスピリッツ』上で連載されていた作品です。比較的マイナーな雑誌での連載作品になりますので、知っている方は少ないかもしれません。
実はこの『ピンポン』という漫画、ネット上では非常に高評価の作品です。スポーツ漫画の話題になると、必ず名前を挙げられる程です。
あの『SLAM DUNK』に匹敵するのではないか、という意見もあります。
この作品を一言で説明すると、「一見、面白くなる要素が感じられないのに、実際に見てみるとめちゃくちゃ面白い」という漫画です。
スポーツ漫画でありながら、それらにありがちな王道展開を、外しに外しまくっています。
なのに、面白い! これが凄いのです。
特徴
『ピンポン』がどんな作品かをざっと知ってもらう為に、最初に4つ特徴を挙げます。
- 扱っている題材は「卓球」。
- イケメンキャラクターが一切登場しない。
- 描かれるのは、とにかく才能、才能、才能が全ての世界。
- 全5巻。
特徴①:卓球の漫画
卓球って私は好きなんですけど、世間的にはマイナースポーツであることは否めません。
卓球のスーパープレイとか凄いんですけどね。休日にそんなの見てるのは、私だけでしょうか。
日本で王道のスポーツといえば野球とか、サッカーとかになりますよね。
あまり子供に人気が出なさそうなジャンルを扱っている、というのが特徴の一つ目。
特徴②:作中にイケメンがいない
『ピンポン』を見始めた人が思うこととして、登場人物があまりカッコ良くないというのがあります。
絵だけ見たら、特に女性は中々手を取りにくい漫画だと思われます。
主人公ですら、そんなにビジュアルは良くない。そして性格が良い訳でもないです。ここは後で掘り下げていきます。
特徴③:才能が全ての残酷な物語
独特の絵や、描かれるドラマがとにかく「リアル」です。
スポーツ漫画といえば、弱小チームが努力して努力して、最後は優勝する。
・・・そんなサクセスストーリーになりがちですけれど、ピンポンは真逆を行きます。
才能が無い選手は、最後までずっと弱いまま。
ちなみに、上記の画像のセリフ「何処見て歩きゃ褒めてくれんだよ!」は作中でもかなりの名場面ですね。
『SLAM DUNK』のフクちゃんじゃないですけど、もっと褒めて欲しいですよね、ハイ。
特徴④:5巻で完結する
全体を通して、非常に短いお話です。
各登場人物の家族関係とか、回想とか、そういったバックボーンはほとんど描かれません。
いくらでも膨らませそうな物語ですが、初見時には「そこで終わるの?」というところで最終回を迎えます。
いかがでしょうか。こうやって書き出してみると、『ピンポン』は熱血スポ根漫画とは対極であるような作品に思えます。
「本当に面白いのか?」
「アツい漫画なのか?」
そう疑ってしまいますよね。
でも、実際に作品を見てみると、めちゃくちゃアツくて、めちゃくちゃ面白いんです。マジで、びっくりするぐらいに。
登場人物
『ピンポン』はたったの5巻しかない漫画なので、メインとなる登場人物は5人くらいしかいません。
それぞれ程度の差はありますが、全員比類なき才能を持っており、それ故に葛藤します。
読む人によって、感情移入するキャラクターが変わります。
先ほど少し触れましたが、簡単にそれぞれのキャラを紹介します。
①スマイル(月本誠)
『ピンポン』の主人公です。主人公ではありますが、基本的にチーズ牛丼食ってそうな、陰キャラの権化みたいなビジュアルです。微妙に私に似ている。
作中屈指の才能を持っており、卓球部の先輩に対しても舐め腐った態度をとります。
一方で闘争心に欠けており、相手に情けを掛ける甘い一面も持ち合わせています。
最初は「何だコイツ」と思いますが、段々と愛着が湧いてくる不思議な主人公です。
★名言
「僕の血は鉄の味がする」
「先生はヒーローを信じますか?」
②ペコ(星野裕)
『ピンポン』における、もう1人の主人公。雨上がり決死隊のホトちゃんと同じおかっぱ頭です。
当時の時代背景を考慮しても、主人公とするには中々挑戦的なビジュアルです。おかっぱ頭が主人公の作品ってありますか?
こんな頭をしていますが、スマイルと同じく、圧倒的なセンスを持っております。
ただ、如何せん不真面目な性格で、練習にはほとんど参加しないで、試合にだけ出るような奴です。
そんな彼は1〜2巻、他のキャラクターにボッコボコにされて、拗ねます。
そして、あるキャラクターに発破を掛けられて、再起していくのですが・・・ここから『ピンポン』はめちゃくちゃ面白くなります。
最終巻で描かれる、ペコvsドラゴンは『ピンポン』どころか、私が今まで読んできた全漫画の中でも屈指のベストバウトです。そこばかり読み直しています。
★名言
「この星の一等賞になりたいの、俺はッ!!」
「反応!反射・・・音速!光速!」
③チャイナ(孔文革:コンウェンガ)
中国人のキャラクターであり、日本の学校への雇われ選手として登場します。
最初は非常に強く、主人公であるペコに対して完封するほどの実力を持っています。
しかし、本人としては「もう少し早く自分の才能を見限るべきだった」と自問自答する等、卓球という世界で抜きんでる程の才能はなく・・・
後々登場するキャラクターとの“格の違い”を印象付ける役割を担っています。
では、彼が不遇な結末を迎えるかというと、決してそういう訳ではないのが、『ピンポン』という作品の魅力の一つですね。
★名言
「救われるよ」
「風間によろしく。」
④アクマ(佐久間学)
チーズ牛丼を食ってそうなビジュアルその2。
主人公二人組の幼馴染であり、『ピンポン』という作品においても、とても重要な役割を持っています。
こんなビジュアルですが、彼はめちゃくちゃ努力家であり、その実力は卓球部の名門で先鋒を担うほど。
しかし、残念ながら才能はありません。10倍、100倍の努力をしても、物語中盤以降、覚醒した主人公にどうやっても勝てなくなってしまいます。
結果的に、多くの読者にとって最も感情移入されるキャラクターになってしまうことが皮肉です。
物語の終盤、彼は卓球という世界から降りてしまうことになりますが・・・
そこで終わりという訳ではなく、そんな立ち位置になったからこそ、彼は初めて強者の苦悩を知ることができます。
★名言
「飛べねえ鳥もいる。」
「少し泣く」
⑤ドラゴン(風間竜一)
日本一の選手であり、作中最強のプレーヤーです。もう勝てる気がしません。修羅です。
『ピンポン』は2002年に実写映画化されており、ドラゴン役は中村獅童さんが演じられています。
めちゃくちゃ怖くて、私が対戦相手で当たったとしたら、棄権します。
「勝利が必然」という環境の中で戦ってきた選手であり、物語の最初から最後まで、非常に洗練された実力で他の登場人物を圧倒します。
しかし、王者には王者の葛藤があり、決して完璧な強さではない、人間的な脆さも感じられる。そういったキャラクターです。
★名言
「理想を掲げることはたやすいのです。ただ理想の追求を許された人間は少ない。」
「また、連れて来てくれるか?」
どの媒体で観るべき?
『ピンポン』は漫画原作で、実写映画化、アニメ化もされている作品になります。
全て観た私から言えることは、「全部面白いから、どれを見てもいい」という結論です。
あえて言うのであれば、実写映画はペコが中心、アニメはスマイルが中心で描かれているという印象を受けました。
実写も、アニメも、原作の魅力が損なわれていない印象を受けました。それがとても良かったですね。
まあ、それでも私個人としては、原作漫画で読むのが一番面白かったです。
上のような原作のダイナミックなコマ割りが、アニメでしっかりと動いています。凄いです!
私は友人に勧められて、アニメから入ってハマった口です。その後、映画→漫画の順番で鑑賞しました。
アニメは公式でのダイジェスト動画がYouTubeでUPされています。絵が特徴的ですが、そこだけで判断せず、最後まで見て欲しいですね。
全11話であっさり見れますし。
作品自体は昔から知っていたので、漫画で読みたかったのですが、漫画喫茶やGEOとかでは見つけられなかったです。
アニメ視聴後、どうしても読みたくなったので、私はKindleで購入しました。(全巻で¥3,300-)
大変満足できたので後悔はしてないのですが、最近お気に入りで行っている喫茶店に、『ピンポン』が全巻置いてあることに気づいてしまいました・・・。
作品の感想
この『ピンポン』という作品を読んで思ったことは、閉じていく物語が好きだな、ということです。
全5巻しかないので、「もう少し読んでいたかった・・・」とは思ったものの、観ている人に愛される作品というのは、しっかりと終わっている。
だからこそ名作なのだな、と改めて思います。
物語をどんどん膨らませて、いつまでも読者を長ーく楽しませる作品を、否定している訳ではありません。
しかし、私の心に残っている作品というのは、展開をダラダラと続けるのではなく、終わるべきタイミングでスパッと終わらせる。
そういう作品が好きですね。
紹介した作品
『ピンポン』 (原作)松本大洋
漫画(Amazon)
アニメ:ピンポン THE ANIMATION(Netflix)(Amazon prime video)
実写:ピンポン(Netflix)(Amazon prime video)