©高橋留美子/小学館
【書評】恋愛モノ苦手な私が唯一好きなラブコメ
今回は、私が人生で唯一読破したラブコメディの大傑作、『めぞん一刻』を紹介させて頂きます。
いつかブログに書こうと思って、随分前から考えていたマンガです。
今回、引用で使用する画像は電子書籍のスクショではなく、iPhoneでの直撮りの写真になりますので、あらかじめご容赦ください。
恋愛ものに興味が無い
最初に個人的な話になってしまい恐縮ですが、私は普段、恋愛ものの作品を鑑賞しません。
マンガに限らず、ドラマ・映画に至るまで、自分から恋愛ものの作品を観ることがマジで無いです。
現実世界でも、自分から恋バナを振ったことってほぼありません。
今年の5月に女優の新垣結衣さんが結婚されたことをきっかけに、今更ながら『逃げ恥』を見ようと思ったのですが、第1話を視聴して満足してしまいました。
『逃げ恥』って、第1話でもう主人公とヒロインが契約結婚を完了させるんですよね。
この後の展開は多分、
「ああ〜キュンキュンする!」とか、
「2人が徐々に恋を意識し始めるのがもどかしい!!」とか、
「ガッキーはかわいいなぁ!!!」とか。
・・・というのを最終回まで繰り返すのだろうと、想像できてしまったので。
私にとって「恋愛」というのは、物語を盛り上げる為の一要素でしかなく、それオンリーの作品だと途中で飽きてしまうんですよ。
とどのつまり、他人の恋愛事情にあまり興味が無いだけかもしれません。
人生でベスト3のマンガ
それくらい、恋愛ものの作品に疎い私ですが、例外的に大ハマりしたのが『めぞん一刻』という作品になります。
間違いなく、今までの人生で読んだマンガの中で、ベスト3にはランクインします。
(あとの2作品は『スラムダンク』と『寄生獣』です。)
最初に読破したときは、あまりの面白さと結末の完璧さに、魂が昇天しました。
その後、いろいろな知人にこの作品を紹介してきました。
「面白いマンガ知ってる?」と人に聞かれる度に、私は『めぞん一刻』を推し続けました。
「頼むから、この作品だけは読んでくれ」と。
ただ正直、勧めた友人からの評判は良くなかったです。
「何かイライラする」
とか言われました。まあ、気持ちは分かります。
後述しますが、『めぞん一刻』はヒロインの性格が超絶面倒臭いです。そこは、賛否分かれるところかもしれません。
それでも私は、この作品を推します。今でも年に一度は読み返しているくらい、大好きなマンガです。
本記事では私なりに『めぞん一刻』の魅力を語り尽くしますので、作品を未読の方は是非、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
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では、さっそく始めていきましょう!
・・・の前に、作品のポイントだけ最初に紹介しておきますね。
めぞん一刻のポイント:
- 終わり方がめちゃくちゃ綺麗。
- 主人公を純粋に応援できるラブコメ。
- 「愛する人を失った後、次の恋愛をしていいのか?」という問いに対しての最適解。
では、今度こそスタートです!
紹介
『めぞん一刻』は、おんぼろアパート「一刻館」に住み着く浪人生:五代裕作を主人公とし、
「一刻館」の管理人として就任したヒロイン:音無響子との淡い恋愛模様と、
「一刻館」の住民たちとのドタバタ劇を軽快に描いた、ラブコメディです。
『ビッグスピリッツ』誌の創刊号から連載の始まったタイトルであり、1980〜87年まで連載されました。
画風は、今のマンガと比較すると流石に古いですね。とはいえ、見慣れてしまえば全く問題ありません。
単行本で全15巻、文庫本で全10巻の作品になります。
作者は『らんま1/2』や『犬夜叉』などのレジェンド作家、高橋留美子先生です。
私から改めて紹介する必要もないでしょう。
2作ヒット出すのが困難と言われる漫画業界において、描いた作品のほぼ全てがアニメ化までされているという、
・・・正に「生きる伝説」な漫画家ですね。
『めぞん一刻』はあの『うる星やつら』と同時期に描いていた作品です。
そのことを初めて知ったときは、良い意味で「人間じゃねえ・・・」と思いました。
『めぞん一刻』は、基本的には1話完結型のストーリーで、時代の経過も現実世界の時間とリンクされているのが特徴です。
最初は主人公が浪人生活からスタートし、物語が進行するにつれて、大学時代→社会人と成長していきます。
それに伴い、ストーリーも徐々にラブコメディからラブストーリーへと変化していきます。
参照リンクはこちら!
斬新すぎたヒロインの設定
『めぞん一刻』を象徴する最大のポイントとして、ヒロインが未亡人という設定があります。
この難しいテーマを、よくぞここまで綺麗に着地させられたな・・・と読む度に感心します。
お見事としか言いようがありません。
本記事で具体的なストーリーを紹介することはしませんが、冒頭で提示したポイントに絞って、これから作品を解説させて頂きます。
終わり方が綺麗すぎる。
『めぞん一刻』を推せるポイントとして、まず外せないのはこれですね。
終わり方が本当に完璧過ぎます。100点ではなく、120点のエンディングです。
読者が見たいものを全部見せてくれた上で、更に読者の期待を遥かに上回るものをお出しされます。
私がマンガにおいて最も重視しているのは、「終わり方」にあります。
途中の物語にどれだけ惹かれようと、結末が微妙だったら、その作品は購入しないです。
そんな私ですが、『めぞん一刻』レベルの終わり方を迎えた作品は、ちょっと思い浮かばないですね。
『めぞん一刻』は本当に最終巻が素晴らしい作品です。
個人的な意見ではありますが、全ファンがヘドバンする勢いで頷くと思います。
恋愛ものなので当然、「負けヒロイン」や「恋敵」となるキャラクターがいる訳ですが・・・
そういったキャラも含めて、登場人物が全員、救われるんです。他にありますか? そんな作品。
最終巻の完成度は、もはや芸術の域に達していると言っていいと思います。
どこを切り取っても面白く、名場面のオンパレード。
- 五代くんのプロポーズに対する響子さんの回答。
- 挿入される五代くんのおばあちゃんのエピソード。
- 桜の下で、五代くんが総一郎さんの墓前で語る名セリフ。
- 全ての決着をつけた後の、一刻館でのエピローグ。
今も思い出すだけで鳥肌が立ちます。何で人間にこんな物語が創れるのだろう、と思ってしまうレベル。
誇張抜きに、異次元の完成度ですよ。
読破したときの充実感以上に、「凄いものを見てしまった・・・」という気持ちになります。
マンガという媒体でこんな気持ちになれたのは、この作品以外だと『スラムダンク』くらいですね。
結末でピークを迎える作品、それだけで私は『めぞん一刻』を推せます。
主人公を純粋に応援できる。
『めぞん一刻』の主人公である五代くんは、恋愛ものの作品には珍しく、読者が素直に応援できる主人公でした。
善良な少年ですが、どこか意思が弱く、自分に自信が持てずに悩む場面が多く描かれます。
男としては少々頼りなく、かっこ悪いところもありますが、そういう部分も含めて愛おしいキャラクターです。
決して完璧な人間ではないので、多くの読者にとっても自己投影しやすい主人公だと思います。
そして、本人は別にそこまで悪くないのに、変なトラブルに何度も巻き込まれたり・・・。
『めぞん一刻』は、そんな五代くんを取り巻く人間関係の、様々なトラブル模様を繰り返す作品でもあります。
読み直す度に、「五代くん、苦労してるなあ」と。
ヒロインとの曖昧な関係性
本作は、主人公が序盤でヒロインに告白します。(酒の勢いもありましたが・・・)
恋愛もので、最初の段階で主人公がヒロインに「好きだ」とはっきり明言するのは珍しいのでは?
昨今の恋愛マンガもこうであって欲しい、と個人的には思います。
ただ、ヒロインである響子さんが一刻館の管理人であることと、未亡人であった為、
五代くんの気持ちを知りながら「なあなあ」の関係を続けてしまいます。
私が忘れたら総一郎さん(夫)は、本当に死んでしまう・・・。
亡き夫を想い、主人公の恋心に対しては素知らぬ態度で過ごそうとします。
五代くんの恋敵となる、「三鷹さん」というハンサム&お金持ちのテニスコーチというキャラクターも登場し、響子さんとの三角関係が始まっていきます。
ただ、冒頭でも紹介した通り、響子さんの性格が超絶面倒くさいんですよ。
五代くんがアプローチしようとしたらスルーする割に、他の女の子と仲良くしているのを見かけたら、分かり易く機嫌が悪くなったり。
非常にやきもち焼きで、五代くんや三鷹さんへの態度をはっきりさせません。そこが響子さんの魅力とも言えますけどね。
読者によっては「何なんだよ、この女は!」と思ってしまうかもしれません。
ただ、このヒロインの性格の面倒くささが、作中でしっかり他の登場人物に突っ込まれているのがイイですよね。
物語の終盤で、ある登場人物が響子さんに対し、
「手も握らせないような男のことで泣くわ喚くわ、どうなってんの」と言い放つ場面があるのですが、本当にそうですね。
登場人物が全員非常識
『めぞん一刻』に登場する人物は、どいつもこいつも癖がありすぎです。
物語の舞台となる「一刻館」の住民が、揃いも揃ってとんでもないメンツになっております。
- 昼間から酒をかっくらうようなおばちゃん:一ノ瀬さん。
- 自分の部屋の壁に穴を開けて侵入し、年下の主人公からタカる男性:四谷氏。
- 裸同然でアパートを徘徊するスナック店員:朱美さん。
この3人がメインのキャラクターで、五代くんの部屋で毎日宴会したり、響子さんとの恋愛模様を茶化したりします。
完全に五代くんのことを「一刻館のおもちゃ」として見ており、酷いときには五代くんのバイト先に赴き、五代くんの奢りで酒を呑んだりします。
作中で五代くんは「生きた非常識」と発言していますが、五代くんは五代くんで激しい妄想癖があったり・・・。
先述したとおり、響子さんも非常に面倒くさい性格をしています。
早い話、『めぞん一刻』にまともなキャラクターなんて、ほとんどいないんです。だからこそ、面白い。
そんな非常識な人たちの織りなす人間模様も、本作の魅力です。
恋敵
物語の初期から五代くんの最大の恋敵として登場し、響子さんとの長い三角関係を続けていく三鷹さん。
スペックからいうと、五代くんには全く勝ち目が無いようなキャラクターなのですが・・・
『めぞん一刻』での最大のライバルは、三鷹さんではないんですよね。
響子さんの元夫である総一郎さん。
死して尚、響子さんにとって一番大切な人であることには変わりなく、物語の最終局面で最大の障壁となります。
物語の最序盤から、響子さんが未亡人であるという設定がありました。
ただ、前半はひたすらに「一刻館」でのコメディ&コメディな展開が続くので、そこまで深刻な問題と読者は認識していないんですよね。
しかし、物語の節目節目で、響子さんが夫の墓参りに行く様子が描かれ、
「響子さんの中で永遠に忘れられていない」という事実が現実的に突きつけられます。
五代くんは「死んだ人は忘れなきゃいけない」と考えて、響子さんへの想いを諦めることはありませんでした。
そして、『めぞん一刻』という物語の本当にラストのラストで、五代くんが総一郎さんの前で告げた言葉。
これがまあ、タマランのですよ。
パートナーを失った人へ。
愛する人が、一生隣にいてくれる訳ではない。別れは突然にやってくるかもしれません。
それは全ての人に、平等に当てはまります。
取り残された人が、その後をどう生きるのか。どう生きていけばいいのか。
『めぞん一刻』はラブコメディというジャンルを超えて、その問いに一つの回答を提示してくれています。
物語が佳境に入ると、響子さんは五代くんへの想いをはっきりと自覚します。
亡くなった人をいつまでも忘れずにいることは、とても尊いことであると同時に、本人にとっては非常に辛いことでもあります。
どうしたって生きていかなければいけないのだから、新しい人間関係を構築することに、何の罪もありません。
それでも、世界で最も愛していた人のことを、完全に忘れてしまうというのは難しいことです。
物語の最後、五代くんと正式に結ばれて尚、前夫への気持ちが消えていないことを響子さんは告げます。
それを聞いて、五代くんが総一郎さんの墓前で、語り掛ける場面があるのですが・・・
ここは本当に全人類に見て欲しい名場面です。
これ以上の答えは、無いですね。この場面を描く為だけに、ここまでの物語の全てがあった。
そう言ってしまっても良いのではないでしょうか。
漫画史に残るベストエンディングだと、私は思っています。
余談
この記事を書くために『めぞん一刻』について改めて調べたところ、任天堂の元社長である岩田聡さんも『めぞん一刻』がお好きだったようです。
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最近はあまり書籍の解説をやっていないので、次回は久しぶりにビジネス書の書評をやっていこうと思います。
以上、余談でした。
紹介した作品
『めぞん一刻』 著:高橋留美子