©KADOKAWA/柳澤大輔
【書評】働く場所を、自由に選べる世界に。
はじめに
コロナウイルスの影響で、外出自粛、経済の混乱などが世界規模で続いている状態ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
私は、休日は完全に引きこもって、読書とNetflixで過ごすことを決意しました。まあ、正直なところ普段と変わらないです。買い物もほとんどamazonで済ませています。本当に、外に出ないでも全然生きていけるもんだなあと再確認しました。すごい時代ですよね。
しかしながら、出勤自体は普通にしています。暫くの間、在宅勤務にはなりそうにないです。仕事上、会社の情報を外に持ち出すことができないので、今の環境では難しいでしょう。
とはいえ、在宅勤務を義務付けられている企業も少なくなく、「リモートワーク」という言葉が随分広まってきているのを感じます。IT社会がこれだけ成長しているのですから、当然です。
コロナの影響でほとんどの企業は経済的に大打撃を受けていますが、注目を浴びたものもあります。ZoomやSlackといったコミュニケーションツールは、爆発的に利用者が増えたそうで、仕事での利用はもちろんのこと、オンライン宴会などのプライベートで使う人もいます。
私もつい最近、オンライン飲み会というものを試してみましたが、なかなか便利ですよ。帰りの電車とか一切気にしなくていいですから。こんなこと、少し前の時代では考えられなかったことです。そう考えると、生活するため・仕事をするための「場所」という制約が、なくなりつつあります。
今回はそんな、暮らし方の価値観の変化について書かれた本の紹介です。
リビング・シフトとは
一言でいうと、「場所という制約」から解放されるパラダイムの変化です。ここではパラダイム:価値観という認識で捉えてください。
今は働く場所、住む場所がどんどん自由になっている時代です。ホリエモンこと実業家の堀江貴文さんが、家を持たず、ホテルやAirbnbを毎日利用する暮らし方をしていることは有名な話ですね。経営者に限らず、若手ビジネスパーソンでも「東京に住んでいたけど、移住しました」という人が増えているそうです。
著者の柳澤さんは、「面白法人カヤック」というWebサービス・アプリ開発を主に行う会社を創立した方ですが、会社の所在地は鎌倉で、住んでいるのも鎌倉とのこと。
こういうことを聞くと、住んでいる場所を自由に選べるなんてのは、金持ちの特権だよ。そういう風に思われますか?
確かに、堀江さんのような生き方や、二拠点生活というのは、私達のような平凡なサラリーマンには難しいかもしれません。私も、今は社宅のレオパレスに色々我慢しながら住んでいる身分です。しかし、一昔前に比べたら、人間は遥かに住む場所を選びやすくなっているんです。
理由の一つとしては、インターネットの技術が進んだこと。パソコン・スマホさえあれば仕事ができる環境が構築されました。昔はテレビ会議をやろうとしても、繋がらなかったり、固まったりというようなこともあったのでしょう。品質が向上した今では、目の前にいるのと変わらないレベルでコミュニケーションできるようになっています。
どこにいても仕事ができるなら、高い家賃を払ってまで都市部にいる必要はありません。だったら、自分の好きな場所で暮らそう、という方が増えているのでしょう。
もう一つの理由は、移動に伴うコストの低下です。LCCの普及やAirbnbによって、以前より格安で旅行することができるようになっています。今後、リニア中央新幹線が開設されれば、ますます住む場所の選択肢が増えます。自宅を固定する必要はなく、季節ごとに快適な土地を選んで移住生活をすることもできるかもしれません。
もっとも、飲食店や介護業界、警察と言った業種は地域にお客様がいるので、「そんなこと言ってられるか」という人もいるでしょう。ですが、医療や行政といった分野でも、少しづつオンライン化して、遠隔でできるようになりつつあります。
多くの人が「職場の近くに家を建てて、一生そこで暮らす」という概念が変わりつつある。それが“リビング・シフト”です。
働き方の変化
大手企業でもリモートワークを推進している動きが相次いでいます。本書でいくつか紹介されていた事例をここで挙げます。
ユニリーバ・ジャパン
「ダヴ」などのスキンケア用品を取り扱うこの会社では、WAAという取り組みを進めています。上司に申請すれば、会社以外の場所で勤務できる上に、5時〜22時の間で自由に勤務時間や休憩時間を決められるという制度です。満員電車で疲れた状態で、生産的な仕事ができるのか?といった疑問から生まれた制度ということですが、共感しかないですね。
Mistletoe
投資家の孫泰蔵さんが率いる共創業のプロジェクトですが、なんとオフィスそのものをなくしてしまったそうです。出社の義務自体がありません。好きな場所で仕事をすることができるので、東京の会社に勤務している会社員だけど、住んでいるのは石垣島。そんなことも可能なのです。
著者である柳澤さんの会社でも、「旅する支社」という制度をつくりました。行きたい場所のオフィスを借りて臨時の「支社」としながら、社員全員で国内外を旅するというもの。この制度は生産性の向上を目的にしたわけではなく、自分自身が行きたいところに行きたい!という柳澤さんの個人的な欲求です。会社の経営としては、非効率極まりないですね。
なんでそんなことをするのか?という問に柳澤さんは「生産性の概念が変化している」と答えています。
これからの時代における“効率化”
これまでの工業化社会では、作業効率が重視され、一時間により多くのボルトを締められた方が良いというような指標がありました。しかし、今後そういった単純作業は機械やAIにとって代わられます。全てがいきなり変わるわけではないのでしょうが、いずれそうなります。
であれば、人間は機械にはできない匠の技を身につけるか、アイデアで勝負するということになります。
アイデアで勝負するとなると、工業化社会における生産性とは、違った考えになります。朝から晩まで仕事したところで、優れたアイデアを生み出せなければ、何も世の中に生み出していないということです。
「旅する支社」は確かに手間はかかりますが、いつもと違う景色を見たり、異なる生活様式で生活したりすることで、体験の引き出しや、それまでになかった視点を増やすことができます。その中で何か一つ、爆発的なヒットにつながるアイデアを生み出せたなら、生産性が高いということになります。
今の時代、絶えず動き続けることそのものが価値になり得る。と著者は綴っています。というのは建前で、本音は「旅行行きてえ」だけかもしれませんが。
仕事が面白くないといけない時代
働き方改革が進められ、ノー残業デーの導入や、22時以降はオフィスの電源を切る企業が増えてきています。昔に比べれば、勤務時間は随分減っているのでしょう。
しかし、勤務時間が短かったとしても、仕事そのものが面白くないと、働く人の幸福度はあまり変化しません。むしろ効率化を強制されることで、疲労感が増しているのではないでしょうか。
労働時間が短縮されるほど、仕事自体が楽しいか、自分の学びになっているかという価値観が重視されつつあります。
そういった時代では、ヒエラルキーのない組織形態が注目され始めています。それがティール組織というものです。
ティール組織とは「ヒエラルキーのない、社員が主体的に勝手に動くような組織形態」を指します。場合によっては給料も話し合いで決まります。だからこそ、常にモチベーションが高く、社員の生産性も高くなります。
こういった組織形態は、時代・環境によって適した形が異なりますから、ティール組織は独裁的な軍隊型組織よりも上だ、という優劣はつけられません。アイデアやイノベーションが重視され、かつてのヒエラルキーが機能しにくくなっている今の時代だからこそ、ティール組織というものが注目されているのです。
今後はシステムが主役ではなくて、個人が主役の時代です。一人ひとりが自律的に考えて行動し、成果を産み出す。前任者のやっていたことを真似るだけでは、新しい価値を組織にもたらすことはできません。そういった意味では、リビング・シフトのようなこれまでの常識を疑う姿勢が重要になりそうです。
自分の頭で考えるという習慣を、日常的に取り入れることから始めてみてはどうでしょうか。新しい成果を出すことができたら、仕事も面白くなるはずです。
紹介した本
『リビング・シフト』 著:柳澤大輔
オススメ度:★★★☆☆
※こういった暮らし方もありかも、という考え方の参考になります。