【要約】スマブラの生みの親『桜井政博のゲームについて思うこと』

2020年5月8日

©KADOKAWA Game Linkage/桜井政博

【書評】天才ゲームディレクターの思考を学ぼう!


スマブラって何?って方に向けて

突然ですが、皆さんは『スマブラ』を遊んだことはありますか?

知らない人のために簡単に紹介すると、相手にダメージを与えて、場外に吹っ飛ばす格闘ゲームです。参考までに、下に埋め込んであるyoutubeを見てみてください。

 

私は今年25になりますが、全作品遊んで育った世代です。小学校のクリスマスに初代の64を買ってもらって、従兄弟の家でGC、中学生の頃はWii、大学時代はWii u、社会人になっても最新作の「スマブラspecial」をやっていました。何なら、スマブラをやりたいがためにSwitch本体を買ったくらいです。

(まあ、全然上手くはないですが。)

 

世界中にファンがいて、シリーズの総売上は5300万本超!

名実ともに、世界で最も売れた格闘ゲームシリーズとなっています。

今や、新規の参戦キャラクターが発表されるたびに、ネット中がお祭り騒ぎになるという、日本ゲーム史上最大のクロスオーバー作品です。

 

そんな、ゲーム史上でも超ビッグタイトルを企画し、現在でもシリーズのディレクターを務めているのが、桜井政博さんという方です。

すっかりスマブラの顔になっている桜井さんですが、『星のカービィ』シリーズの生みの親でもあります。桜井さんが『星のカービィ』のディレクターを務めたのは、なんと22歳の頃でした!

一言で言えば天才です。間違いなく、日本のゲーム業界における第一人者の一人でしょう。

 

 

桜井さんのコラム集

『週刊ファミ通』という雑誌で掲載されていた桜井さんのコラムを、一つの書籍にまとめたものが『桜井政博のゲームについて思うこと』というタイトルです。シリーズ化されているようですが、今回紹介するのはその第一作目。

収録されている記事は2003~2004年頃になりますので、情報が昔のものであることはご容赦ください。

 

あくまでコラムなので、書籍としては軽い内容です。桜井さんの近況報告とか、ゲームを遊んだ感想など。正直、ゲームのファンや、桜井さんのことを知っている人でなければ、興味も湧かない本だと思います。

ですが、『スマブラ』や『カービィ』をつくったような人が、どういった考えでゲームづくりに取り組んでいるのか、ということを知ることができます。天才の、仕事に対する知見を得られると考えれば、一度手にとってみても良いと思います。

私がこの本を読んだきっかけは、桜井さんのつくったゲームをよく遊んでいたことと、実際にイベント等でお会いしたことがあったからでした。最初は娯楽目的で読んでいたのですが、想像以上に学べることがありました。ゲームに限らず、クリエイターの人などにも参考になる考え方が載っています。

 

 

桜井さんの仕事について思うこと

桜井さんの一番大事にしていることは、ゲームを遊んでいるお客さんだということです。このコラムを読んで、そのことを一番強く感じました。

・・・何を当たり前のことを言っているんだ、と思われるかもしれません。でも、考えてみてください。

  • あなたは、常にお客さんを第一に考えて仕事をしている自信がありますか?
  • そもそも、自分のお客さんが誰なのか分からないまま、仕事している人すらいるのではないですか?

恥ずかしながら私は、仕事において自分の都合を優先させようと思うときがあります。

面倒臭い仕事からはつい、目を背けたくなってしまいます。

仕事があまり進んでいないけど、今日は早めに帰りたいと考えるときがあります。

 

桜井さんのつくったゲームには、お客さんのことを中心に考えて設計されている”というところが、随所に見られます。遊んでいるときには全く考えていなかったことですが、例えば『星のカービィ』というゲームには“ゲーム初心者でも触ってもらえるように”という明確なコンセプトがありました。

いくつか具体例を挙げると・・・

  • 『マリオ』のような同系等の横スクロールアクションゲームとは異なり、主人公に体力ゲージがある。(つまり、最大5回までミスをしても先に進める)
  • 飛行状態になれるので、落下ミスする危険性が少ない。
  • 敵を利用して敵に攻撃できる。(吸い込み&吐き出しというアクション)
  • ゲームクリア後、上級者でも舌を巻くようなExtraモードを遊べるようになる。(私はクリアできませんでした)

といった特徴があります。

 

あの『スマブラ』も、ゲーム初心者が手を出しづらい格闘ゲームを遊んでもらえるように、という意図があって開発されたものです。

ステージの構造自体にアクシデント性が高かったり、ゲームバランスが崩壊しかねない程のアイテムが意図的に設定されていたりと、単純にプレイングが上手ければ勝てるというゲームではありません。

 

今や世界中でトーナメントが組まれ、実力を競い合うものになりつつありますが、元々『スマブラ』というゲームは「勝っても負けても楽しい」ということを売りにしたものでした。それは「対戦結果の画面で負けた相手が勝ったプレイヤーを拍手する」といった部分によく表されています。

私も学生時代には友達とスマブラを遊んでいて、アイテム無し終点の設定で、馬鹿みたいにやっていました。でも一番楽しかった思い出は、アイテムやステージ等を何でもありの設定にして、勝敗を気にせずに遊んでいたときだった気がします。

 

過酷な制作現場

 

さて、そんな桜井さんの仕事ぶりですが、やはり超多忙のようで、休日を含めて深夜まで働くという生活を繰り返しているとのこと。

“作品”をつくるには過剰な努力をしてやっと形になることが多く、色々な意味でしんどいと語られています。桜井さん自身、学生時代はこういった働き方に疑問があったようで、「そんな人生って何のためにあるのか」と思っていたそうです。

ですが、今はそんな自身の考えを青臭いものと一蹴しています。プライベートで自由な時間だけが、人生の尺度や価値じゃないということです。

 

作り手がちょっとだけ無理をして、少しでも良いものをつくれば、遊んでいるユーザーにとってもちょっとだけ嬉しいものになる。その嬉しさの“総量”を考えれば、完成度を高めることにためらいを持つべきではないと。

 

桜井さんのこの考えが正しいかどうか、そこはあまり重要ではないと本人が言っています。子どもが生まれたりしたら考えが変わることもあるでしょう。ただ、そういった考えで桜井さんはゲームづくりに取り組んでいるということです。凄くカッコいい大人ですよね。

良い仕事ができれば、多くのお客さんがちょっとでも嬉しいという考え方は、私も仕事で疲れているときによく思い出しています。

当然、心の癒やしも大事にしないといけないですけどね。自分が頑張った分、誰かが嬉しいというのは素晴らしいことです。

 

 

学校と、仕事と、スペシャリスト

このコラム集を読んで、一番印象に残った部分です。

ゲームづくりを仕事にしたい読者から、就職に関する質問が届きます。「スキルも経験もないのですが、ゲームづくりの仕事に関わることができますか?」といった内容の質問に対し、桜井さんは自分の体験談を交えながら、「スペシャリスト(専門家)が世界をつくる」と語ります

 

桜井さんの経歴

中学生の桜井さんは、都内の某高等専門学校に入学されます。高専は大学以上に実践的なことを学べるため、電気工学のエキスパートになれると考えていたそうです。

しかし、授業を受けるにつれて「これは自分がやりたいことではない」ということに気づき始めます。そして、自分の興味がある分野は「ビデオゲームをつくる仕事」というふうにターゲットを絞りました。

結果的には高専を中退し、普通高校に編入して、ハル研究所というゲームメーカーに就職されます。その間いろいろなゲームを買って遊んでいた桜井さんは、作り手と売り手が期待するゲームのギャップに苦労をされたそうですが、そのことも勉強になったと述べています。

 

そんな自分自身の経歴も踏まえ、ゲームクリエイターというスペシャリストを志すのであれば、とにかく平均という鞘に収まるべきでないと主張します。

 

私なりの解釈をするなら、その道を選んだのであれば、極端にやりなさいということでしょう。

  • 料理を作るのが得意なら、毎日行列ができるレストランを経営する。
  • 人と会話するのが好きなら、社内で一番の相談役になる。

それが、「スペシャリストが世界をつくる」ということです。

 

桜井さん自身、こんなに多忙な生活を続けているのに、最新のゲームを遊ぶことを毎日かかさないそうです。本人曰く“研究”だそう。

確かに、それくらいの人でなければ、『スマブラ』という巨大なコンテンツはつくれないですね。

 

皆と同じ行動をとり、群れの一員となって安全地帯に居座っているのは、しばらくは安泰かもしれません。しかし、安全地帯にいて自分だけが力を発揮する仕事をしようと思うと、格別な才能がなければ難しい。

リスクがあっても、「上等じゃねえか」と群れから飛び出す行動があって、初めて他の人の目に映るものです(もちろん、周囲と折り合いをつけていくことは大事ですが)。

そして大事なのは、自分にできることを見定めて、それを磨くこと。それを評価してくれる人は、必ずいるとのことです。

 

自身を振り返ってみて

この桜井さんの回答を読んだとき、私にはかなり、刺さりました。というのも、実は私も高専出身です。そして、桜井さんと同じように、講義を受けながら「これは自分のやりたいことではない」ということもぼんやり思っていました。

ただ、ぼんやり思っていただけで、やりたいことも決められないまま、高専に7年間も通い続けました

 

別に、高専に入学したことを後悔しているわけではありません。高専で出会った友達とは今でも交流があります。周囲の環境には非常に恵まれていました。しかし、在学中は将来を何も見据えず、周囲に流されてばかりいたので、人生の意思決定としては間違っていたかなーと思っています。

 

今は人生に迷いがあるわけではありませんが、世界をつくるスペシャリストかと言われると、まだまだそんな実力はありません。桜井さんが言っていたような人とは違う行動をとること、群れから外れる行動をとるのは、とても勇気がいることです。だからこそ、人生を変える唯一の方法です。

他人と違うことをやるのは大変で、続けることが何より難しいです。最近は休日の実行目標を細かく設定しました。ただ、それを完璧にこなせてはいません。日々、改善しながら一歩一歩成長していきます。

 

 

紹介した本

桜井政博のゲームについて思うこと』 著:桜井政博

オススメ度:★★★☆☆

※ゲームに興味がない人は、読んでもあまり面白くないと思います。興味がある人は是非。

 

  • この記事を書いた人

イナ

本業は設計者。29歳。書評とコラムを発信する、当サイトの管理人。気ままに記事を更新します。日課は読書と筋トレ。深夜ラジオとADVゲーム好き。

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